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株式会社日本化学工業所

「できるかできないかではなく、社会の公器としてやらなければならないこと」和歌山県の100年企業がサステナビリティに取り組む理由とは 導入事例 従業員の意識向上

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ご担当者

代表取締役社長

田中 俊一 様


製造本部長

越谷 猛史 様


非財務情報の開示が義務ではない中小企業の中にも、大手に劣らない脱炭素対策を進めている企業があります。和歌山県で1920年に創業された株式会社日本化学工業所は、サステナブルな社会の実現に寄与するための取り組みを進めている中小企業の一つです。「Zeroboard」を活用しながら、脱炭素対策を始めた背景や取り組み内容、得られた効果についてお聞きしました。


  • 脱炭素に取組み始めた背景
    • 社会全体の環境問題への意識の高まり
    • 創業100年を迎え、次の100年も「いい会社」にするために必須と考えた

  • 取り組み内容
    • Scope 1,2に加えScope 3までCO2排出量を算定
    • 照明のLED化、再生エネルギー導入、エネルギー効率を重視した設備の導入
    • 和歌山県の「企業の森」に参画し、森林保護活動を実施
  • 得られた効果
    • 脱炭素を含めた環境への取り組みがBCP(事業継続計画)やエイジフレンドリーにつながった 
    • 働くことに対する従業員の意識の変化

90年代から環境対策を実施。社会全体の環境問題意識の高まりをうけ、次の100年を見据えた脱炭素経営をスタート

(左) 製造本部長 越谷 猛史様 (右) 代表取締役社長 田中 俊一様

――脱炭素に取り組み始めたきっかけを教えてください。

田中様:脱炭素に取り組む前、1990年代から環境対策に取り組んでいました。きっかけは1991年に成立し、1994年に規制基準適用開始となった全国的にも珍しい「和歌山市排出水の色等規制条例」です。遵守するために染料メーカーとして独自技術で排水処理を行い、常に厳しいレベルの管理を行ってきました。“色抜き条例”とも言われていて、無色透明に近い状態まで処理しなければいけないので、製造工程で発生する着色廃水を脱色処理しています。当時、各社は経常利益レベルの設備投資をして対応しました。

脱炭素への取り組みを始めた理由の一つは、社会全体の環境問題への意識の高まりです。環境問題に対応することがいいことだという価値観が強くなっており、時代の変化を感じます。以前は条例ができたことによって、言葉を選ばずにいうと“やらされた”わけです。しかし時代が変わって、経済と環境をバランスさせていくことがより重視されてきています。今はサステナビリティに関する、特に若者たちの価値観の変化を強く感じます。

「Zeroboard」でScope 3まで算定。CO2排出量削減のために全社横断チームを発足

――脱炭素のために取り組んでいることを教えてください。

田中様:私の祖父が当社を創業した1920年にはスペイン風邪が流行っていました。そして100年経ち、2020年にコロナのパンデミックが起こりました。次の100年を見据えたときに、いい会社づくりをしなければいけないと決意しさまざまな取り組みを始めました。その一つとしてコロナ禍に会社のホームページを刷新し、CO2の排出量などをきめ細かく開示し始めました。ゼロボードから支援をいただきながらScope 3まで算定しています。

越谷様:Scope 1,2は自力で算定していましたが、Scope 3は難しいためゼロボードに協力していただきながら進めています。エネルギー使用量の把握自体は1977年10月から続けてきました。

各部門から代表者を出して全社横断的なチームを作り、「Zeroboard」で算定したデータを見ながらどうやってCO2排出量を削減していくかを検討しています。算定した結果、Scope 1,2では重油と電気の割合が大きいことがわかりました。Scope 3の中ではカテゴリー1の原料関係に含まれるCO2が多くを占めます。化学の会社としては原料そのものを変えるのは至難の業です。ただ、努力できることはあります。例えば開発する際にCO2排出量が少なくなる原料を選択できるようにしたり、輸送時のCO2排出量を減らすために近い所から調達することなどを検討しています。「Zeroboard」を使うことで細かな数値を把握できるようになったので、具体的な対策を取れるようになりました。

田中様:多くの中小企業同様、脱炭素に向けた取り組みを進められる専門人材は社内にいません。そのため専門的なサポートはゼロボードにお願いしています。新たな取り組みをするにあたってはもちろん自分たちも勉強が必要ですが、それだけで進めてしまうと生産性が低くなってしまいます。専門家のご指導、ご支援が必須なので頼りにしています。

――次の100年に向けた戦略の中で、脱炭素対策はどのような位置づけになっていますか。

田中様:脱炭素はいい会社にしていくために対応すべき社会的な課題の一つだと捉えています。企業は社会の公器です。つまり公益資本主義です。企業が存続するためには、社会貢献、信用・技術・人間尊重、不易流行が必要です。そして企業は人なりです。それらが経営のベースになっています。

企業は時代によって変化する社会課題、ニーズに対応しなければなりません。今の時代は事業を行うにあたって、社会の公器として環境問題を含む社会課題の解決と事業・経済を両立させなければなりません。事業を通して社会課題を解決し、社員やその家族の幸せも実現したい。そのために2030年に向けて中期ビジョンを掲げ、変革に挑戦しています。そのためには私たち自身も大切なことは残しながら、時代に合わせて変わっていかなければなりません。

脱炭素のためには追加のコストがかかりますが、それは社会課題に取り組むかどうかとは別の話です。企業は社会貢献をしないと存在価値がなくなると考えていますので、できるかできないかではなく、やらないといけないことなのです。そこに理屈はありません。ですから、コストを吸収できるように自ら価値創造していかなければなりません。一人あたりの労働生産性を高め、コストを吸収できるような構造にしていくということです。

脱炭素対策から波及しBCPやエイジフレンドリーにも効果

――脱炭素に取り組んだ結果、どのような効果が出ていますか。

田中様:事業環境の変化が激しく、今まで通りやっていてはどうにもならないという認識を強く持っていたところ、コロナでそれが顕著になりました。まず手をつけたのは人材育成です。これからの社会の要請に合った仕事をするために人事制度と人財育成制度を改めました。他にもホームページの刷新やBCP(事業継続計画)に取り組み、その後にビジョン策定と中期経営計画の立案をしました。「200年企業」という長期ビジョンと2030年までの中期経営計画の下で“いい会社”作りを進めています。

ビジョンの策定には幹部社員にも入ってもらい、実現のために課題抽出を行いました。バックキャスティングで事業戦略や人事戦略、環境(機能)戦略を立てました。例えば工場の再編・最適化やDX、GXなど多岐にわたります。戦略の下で課題を明確にして、中期計画の8年間で、業績目標も踏まえて課題を解決していくことにしています。

――省エネによる脱炭素対策や森林の保護活動について教えてください。

田中様:今まではISO9001を取得し、実務に落とし込んできました。さらに環境問題に対応するために14001を2024年2月に取得し、環境マネジメントシステムを実効性のあるものに進化させようとしています。「Zeroboard」で現状把握をし、設備の入れ替えや製法・工程の改善、太陽光発電の導入など徹底的に省エネを進めています。

越谷様:工場などで使っている蛍光灯のLED化を進めています。現在15%のLED化率を3年後に60%までもっていく計画です。また、古い設備もあるため、CO2排出量が多く使用回数が多いものから順にエネルギー効率の高いものへと交換を進めています。

田中様:脱炭素を進めると、波及効果があります。例えば工場のLED化を進めれば、電力消費を減らしながら明るくすることができ、エイジフレンドリー(高年齢労働者の安全と健康確保)にも効果があります。脱炭素の要素も落とし込みながら設備投資を進める中で考えているのは、コストがかかるだけの話で終わらせずに生産性や付加価値の向上にも波及させることです。GXもDXもイノベーションもすべてつながっているわけです。

また、和歌山県の「企業の森」事業に参画しています。和歌山の豊富な森林資源を守りながら、地域社会と交流を図り地域の発展に寄与するために活動しています。和歌山県田辺市龍神村にある森林の一部を「日本化学の森」と命名し、植栽や草刈、間伐等の森林保全活動に取り組んでいます。これも企業としての社会的責任を果たすために始めていて、結果として災害を防いだり、CO2の吸収にも貢献できるという考え方です。

「企業の森」の活動も脱炭素への取り組みも私の発案で始まっています。ただ社員を巻き込んでワンハート・ワンチームで進めないといけません。パーパス経営で会社の立ち位置や目指す方向を明確にして、全員で正しい方向を向いて自発的にやりたいことをやれる会社にしていきたいです。

越谷様:パーパス経営によって仕組みが変わって、目的に対する目標を各人に割り振っていって、全員で力を合わせて事業を成し遂げていく体制に舵を切りました。脱炭素への取り組みを通じて目的意識を持って行動する人が増え、組織文化として根付いてきた実感があります。

2023年6月 「企業の森」調印式の様子

――今後の展望について教えてください。

田中様:脱炭素はまだ努力義務段階ですが、排水条例がそうだったように3年も経たないうちに事業をするための要件になるのではないでしょうか。カーボンニュートラルが普及していけばそのためのコストは下がっていきます。そうなるまで、今はまず生産性を高めなければいけません。カーボンニュートラルが事業を行うための要件になってから始めても遅いわけです。特に私たちのような中小企業の場合は難しい。やはり不易流行で、サステナビリティ、脱炭素に向かう流れに先手を打たなければいけません。

サステナビリティの本質は、子どもたちが将来、安心して暮らしていけるようにすることです。カーボンニュートラルは世界的な潮流であり、社会的な要求事項です。日本は世界的にみると対応が遅れている部分があるかと思いますが、政府も大手企業も巨額の投資をし始めているので、成長分野でもあるわけです。社会の公器として存在意義を持ち続けるために取り組みを続けたいと思います。

ありがとうございました。貴社の取り組みがますます進展されるよう、引き続きご支援させていただきます。



関係者のコメント

株式会社ゼロボード

カスタマーサクセス部

松村 香澄