ESG関連データの収集・管理・開示支援なら

奥野製薬工業株式会社

脱炭素対策は未来への投資。「従業員の意識」「採用力」「製品競争力」に効果をもたらした、環境に配慮した研究開発が導く脱炭素経営とは

サイトを見る


ご担当者

総合技術研究所、品質保証部
執行役員総合技術研究所副所長、品質保証部長

田中 克幸 様


SCM統括部、法務部、経理部
執行役員SCM統括部長、法務部長、経理部担当

尾嵜 昭彦 様


非財務情報の開示が義務ではない中小企業の中にも、大手に劣らない脱炭素対策を進めている企業があります。「Zeroboard」を導入いただいている奥野製薬工業株式会社は以前からの環境への取り組みを時代に合わせて進化させ、成果を出している中小企業の一つです。脱炭素への取り組みを始めた背景や取り組み内容、得られた効果についてお聞きしました。


  • 脱炭素に取組み始めた背景
    • 取引先からのCFP(カーボンフットプリント)開示要望にこたえられなかった
    • サステナビリティ関連の勉強会で同規模の会社から刺激を受けた
  • 取り組み内容
    • 環境にやさしい製品の研究開発
    • 照明のLED化や再エネ電力・ハイブリッド車への切り替え
    • 「Zeroboard」を活用したScope 3までのGHG(温室効果ガス)排出量算定・可視化
  • 得られた効果
    • 従業員の意識の変化 
    • 採用力の強化 
    • 開発した環境配慮型製品に対する既存取引先からの評価と競争力向上への期待

業界全体で環境対応製品に対するニーズの高まり。取引先からのCFP開示要望への対応が急務

――脱炭素に関心を持ったきっかけを教えてください。

田中様:当社は「表面処理・無機材料・食品分野において、世界のものづくりを技術で支える研究開発型企業」です。表面処理部門では有害物質の削減、食品部門では食品ロスの削減など、20年以上前から各部門で環境対策に取り組んできました。特に近年、表面処理は業界全体の流れとして環境対応製品への要望が高まっています。

表面処理部門のお客様には自動車や電子部品関係が多く、脱炭素に関わるGHG排出量開示の要望が高まっています。私たちもBtoBのサプライヤーとして対応する必要性を感じ、脱炭素を意識した取り組みを始めました。

取引先からは「製品ごとのCO2排出量(CFP)を算定してください」と要望が来ていますが、まだ満足のいく回答はできていません。回答できているのはScope 1と2で、全体の9割を占めるScope 3の算定に取り組んでいるところです。CFP(カーボンフットプリント)を完全開示しないとお取引が止まるというレベルではないですが、早急な対策が必要だと感じたことがきっかけです。

性能・コストに加えSDGsを軸とした研究開発を推進。「Zeroboard」導入により全社で脱炭素対応が加速

――脱炭素への取り組みを始めた経緯について教えてください。

尾嵜様:親しくお取引きしている長瀬産業株式会社が2022年にサステナビリティ推進室を立ち上げ、私どもに説明にいらっしゃいました。長瀬産業が主催しているサステナビリティ関連の勉強会である「環境・サステナビリティコンソーシアム」の第1回目に誘っていただき参加したところ、大いに刺激を受けました。上場しているとはいえ規模の小さな会社や中小企業の化学メーカーが集まっていて、私たちよりも脱炭素対策が進んでいるところがあったからです。

長瀬産業からは継続的に脱炭素に関する情報提供をしていただく中で、ゼロボードをご紹介くださいました。信頼ある長瀬産業からのご推薦であったことに加え、ゼロボードはGHG排出量可視化サービスのリーディングカンパニーとして経済産業省の実証やルール形成にも参画されていることを知り、安心して取り組みを始めることができました。

――具体的にはどのような取り組みをされていますか。

尾嵜様:環境への取り組みは20年ほど前から始めていました。例えば、環境に負荷を与える廃棄物を減らす取り組みです。弊社の主力製品の一つであるめっきに使う無電解ニッケルめっき液は通常3~6回転(MTO:メタルターンオーバー)使って廃棄しますが、電気透析法の研究開発によって廃棄までの寿命を100回転(MTO)以上まで延ばしました。

田中様:環境に配慮した製品の開発は以前よりおこなってきましたが、ここにきてニーズが高まっていることを感じています。そのような時代のニーズを受け、研究開発のテーマを決める際は性能・コストに加え、SDGsの軸を入れています。「この商品はSDGsのこの項目に貢献できる」「環境面でこの部分を訴求することができる」など、環境対応の面まで考えて決定しています。当社は研究開発型の企業で、社員の3割が研究開発員です。研究員は実験室に閉じこもっているわけではなくお客様との接点もあるので、環境への取り組みの意識が醸成されていたため動き出しが早かったのかもしれません。

排出量の多い電力のCO2削減も進めています。照明のLED化やハイブリッド車の採用、電力会社・プランの選定など地道な取り組みが多いです。ガラスの溶融炉の運転効率化にも着手し、50%ほど減らせる試算が出ています。

――GHG排出量の算定はどのように進められましたか。

尾嵜様:2022年に「Zeroboard」を導入するにあたり、社内で少人数の専門プロジェクトチームを立ち上げました。私たちは中小企業ですが、大企業並みの脱炭素対応をしなければいけないという意識を元々持っていました。気候変動に対応していかないと商売がなくなるという危機感をみんな持っていたことと、経営層の判断により、スムーズに進められました。

先日副社長が「地球は一つだから企業規模に関係なく取り組まなくてはならない」と話していました。SDGsの観点も意識して従業員の心理的安全性や働きやすさにも取り組んできたので、脱炭素へのシフトチェンジも違和感なく進めています。

田中様:プロジェクトチームのメンバーは皆兼務ですが、うまく分担ができているので、各人の作業負担は通常の業務の1~2割程です。Scope 3の算定が完了次第、全社でのキックオフを実施し、ウェブサイトで算定結果を公開していく予定です。

CO2排出量を削減するために、表面処理工場の建て替えに電炉材の鉄を使ったり、窓に設置できる太陽光パネルを導入するなどして年間2400トンのCO2を削減する計画を立てています。他にもタンクを洗浄するために高圧洗浄の設備を入れて水の使用量を85%カットするなど全社的に取り組みを進めています。社内で脱炭素会議を行い、削減目標を立てて実効性のあるものにしています。

脱炭素対策は先行投資。「従業員の意識」「採用力」「製品競争力」に効果あり

――脱炭素に取り組んだ結果、どのような効果が出ていますか。

尾嵜様:社員の環境問題への意識が自然と変わりました。例えば、研究開発棟を建てる際にも二重ガラスを採用して光熱費を下げるといったことを社員が当たり前のこととして提案するようになっています。

また、全社的に行っているスキルアップ研修でも脱炭素について取り上げる社員がいました。物流課の社員が「物流の2024年問題」をテーマにしたセミナーを実施し、CO2削減についても触れました。当社は生産拠点が東京や大阪、名古屋など複数存在し、在庫拠点はさらにあります。そのため最大消費地の近くで製品を作ることによってトラックの輸送量を減らせば、結果としてCO2排出量を削減できます。生産プラントの効率も考える必要があるため簡単ではないですが、2024年問題解決とCO2削減を同時に実現しようとしています。鉄道への切り替えなどモーダルシフトの比率も増やす計画です。

CO2排出量を低く抑えながら、売上は伸ばしていかなければなりません。相反することをしなければいけないので、まだ半信半疑な企業が多い印象です。しかしヨーロッパでは電池メーカーに対してCFPの申告を求める規制や国境炭素税[炭素国境調整措置(CBAM)]の話も出てきています。

脱炭素への取り組みがコストアップになることはありますが、我々は研究開発費と同じく先行投資だと捉えています。今から脱炭素に取り組んでおくことによって、将来のお客様になる企業と出会えると考えています。

田中様:脱炭素への取り組みは採用にもいい影響があります。多くの中小企業と同じように当社も新卒採用は厳しい状況でしたが、私たちが脱炭素に取り組んでいることを知って興味を持っていただくことが増えました。最近の学生は環境問題への意識を高く持っている方が多く、実際に直近で採用した10名のうち3名が、弊社を選んだ理由として環境への配慮を上げたことには驚きました。

また、環境に配慮した研究開発の成果は主に既存の取引先から現れています。コスト度外視で「この物質を完全に排除した形で製品開発をしてください」と依頼されるお客様もいらっしゃいますし、環境への取り組みが取引の決め手になることもあります。新規の取引先につながった実績はまだ少ないですが、展示会に出展すると反響があり、同じ製品なら環境に配慮したものが選ばれると確信しています。

――「Zeroboard」がお役に立てている点を教えてください。

田中様:自社の数字を会計ソフトや基幹システムから吸い上げるだけで、「Zeroboard」で算出できる機能は便利です。サプライヤーである原料メーカーや当社の製品を作っていただいている協力工場の数値はアンケート形式で出していただき、原料由来の数値は係数を使って算出しています。サプライチェーン全体で算出していくと、正確な数字が出てくると考えています。

尾嵜様:私は経理も担当しているので、会計データからの算出や、基幹業務システムから取り出したデータを入れると物流関連も算出できる点を評価しています。 「Zeroboard」で分析した結果、ほとんどがScope 3だという事実に衝撃を受けて、この先の取り組みについて考えていました。仕入れ先には、当たり前のように脱炭素対応ができているヨーロッパの企業もあれば、これから取り組みを始める国内企業もあります。そのため「Zeroboard」を選んだ決め手でもある、サプライヤーへの調査協力のサポートに期待しています。

今度は競合他社と同じような製品を提案する際に脱炭素への取り組みが評価され、環境に配慮した製品が選ばれやすくなると考えています。自社としてもCO2排出量削減に向けて様々な施策を進めますが、従来品と比較して製品使用時のCO2排出量が少ない製品を研究開発し、今後も脱炭素への先行投資を続けていきたいと思います。

ありがとうございました。貴社のさらなる脱炭素経営の推進に向け引き続きご支援させていただきます。



関係者のコメント

株式会社ゼロボード

カスタマーサクセス部

松村 香澄
ネットワーク機器の商品企画開発を経て太陽光発電事業会社、修理事業サービスの立ち上げに従事。 支援実績:エンタープライズ案件、また製造業を主にサポート ――「Zeroboard」での算定完了後、奥野製薬工業様では、使用したデータ・原単位が適したものだったのかの分析・確認に時間をかけられました。そのため、削減するべき箇所を数値で把握した上で、今後の取り組みについて施策を検討されております。 今後は削減の取り組みがしっかりと「Zeroboard」上で数値として反映できますよう引き続きご支援させていただきます。