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山口重工業株式会社

温室効果ガス排出量の削減目標を前倒しで達成見込み。アジア初のPAS 2080を取得した山口重工業が目指すグローバルな脱炭素経営

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ご担当者

代表取締役

山口 豊和 様


地球温暖化対策として脱炭素化に向けた取り組みが世界的に加速する中、建設業界や鉄鋼業界においてもその動きが顕著になってきています。その先駆けとして脱炭素経営の実践に取り組んでいるのが、2024年に創業75周年を超える鉄骨ファブリケーターの山口重工業株式会社です。

同社は2024年2月にアジア初となる「PAS 2080(建設およびインフラ開発における温室効果ガス排出量の算定および報告に関する規格)」を取得しました。脱炭素経営に取り組み始めた経緯やPAS 2080取得に至るまでの苦労や工夫、今後の展望について代表取締役の山口さんに話を伺いました。



  • 脱炭素に取り組み始めた背景
    • 東京大学EMPプログラムに参加し「脱炭素化」に着目
    • 鉄骨ファブリケーターとして、業界の先駆けとしてPAS 2080を取得したかった
  • 取り組み内容
    • PAS 2080を取得
    • 「Zeroboard」を活用しScope 3までCO2排出量の算定・可視化
    • ソフトバンクと連携し、CO2排出量を削減
  • 得られた効果
    • 従業員の脱炭素化に対する意識が向上 
    • ポジティブ・インパクト・ファイナンスによる資金調達を実施 
    • CO2排出削減目標を前倒しで達成見込み

東京大学EMPへの参加を機に脱炭素化の動向に着目

――脱炭素経営に取り組み始めた経緯を教えてください。

2020に東京大学EMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)第23期プログラムを受講しました。そこで、サーキュラーエコノミーなど初めて聞く用語がたくさん出てきたんです。環境問題に取り組んでいる同期の友人からいろいろな話を聞く中で、環境対策に対して非常に興味を持ちました。

プログラム終了後、金融機関で働いていてロンドンに転勤した同期から「イギリスの鉄鋼市場では『グリーンスチール』という言葉を耳にする。どうやら再生可能エネルギーの電力で作られた素材のことらしい」という話を聞いたんです。

最初は軽く聞き流す程度でしたが、深く調べていくうちに今後のトレンドになるかもしれないと思いました。

当時、日本国内ではグリーンスチールなどは全然話題になっていませんでしたが、4年経った今、鉄鋼業界においても脱炭素化に向けて積極的に取り組んでいくことがトレンドになっています。

「Zeroboard」を活用し、アジア初のPAS 2080を取得

――「Zeroboard」を導入した経緯を教えてください。

弊社はソフトバンクの力をお借りしながらITシステムを導入するなど、積極的にDXに取り組んでいます。「Zeroboard」もソフトバンクからご紹介いただきました。

「Zeroboard」を使った算定を担当しているのは主に事務スタッフです。ゼロボードのコンサルタントの方にもサポートいただいているので、環境に対する専門知識がほとんどなくても運用できています。

「Zeroboard」を導入する前は、Scope 1、Scope 2を算定するので精一杯でしたが、現在はScope 3まで対応できています。

――御社は2024年2月にアジア初となるPAS 2080を取得しています。なぜ取得を目指されたのでしょうか?

建築業界において、カーボンニュートラルや循環型社会の実現に向けた取り組みに関心が高まっています。その中でも、キーワードとなっているのが「持続可能性」です。PAS 2080を取得することで、環境に対する責任を果たし、より良い未来を築くための先行事例になれると考えました。

――ご苦労されたことや「Zeroboard」が役に立った点を教えてください

仕様規格書は全て英文なので、英文を正しく理解できているか、日本語をうまく英語に訳せるかどうかが不安で非常に苦労しました。ただ、多少の事前準備は整っていたので、短期間で認証を取得することができました。

PAS 2080を取得するにあたって、温室効果ガスの排出量などを正しく算定する必要がありました。ゼロボードにいる専門家の知見を借りながら、開示ルールに則って情報を開示したことで、比較的スムーズに作業が進みました。

前倒しで温室効果ガスの削減目標を達成

――御社は「2030年までに2013年比で55%の温室効果ガス削減」を目標に掲げていらっしゃいます。具体的な取り組み内容について教えてください。

温室効果ガスの排出削減目標や気候変動への対策について議論される「COP28」において、日本は2030年度までに2013年度比で46%の温室効果ガスの排出削減を目標に掲げています。脱炭素経営に取り組み始めた頃の弊社も46%の排出削減を掲げていましたが、2022年に温室効果ガス排出量の算定が終わった時点で目標を改めました。製造プロセスにかかる温室効果ガス排出量をカテゴリー分けし、削減に取り組んでいけば容易に達成できると確信を持てたんです。

グローバルでは、世界で最も目標を高く掲げていたイギリスが55%の排出削減であることを知り、弊社も55%の排出削減を新たにKPIとして設定しました。具体的には、製造プロセスにかかる電力を全て非化石化しました。ソフトバンクにご協力いただき再生可能エネルギーに切り替えるなど取り組みを進めており、想定よりも早く目標達成できそうです。

世界トップを目指し、先駆けて脱炭素経営に取り組む

――脱炭素経営を実践するにあたり、社内の理解や協力を得るために工夫していることはありますか?

社内研修の機会を増やしています。脱炭素やカーボンニュートラルといった基本的な説明はもちろん、環境省の資料を共有しながら政府が掲げる目標を学んだり、外部の専門人材を招いて研修をしたりと、さまざまな取り組みを行っていきました。その結果、少しずつ社員の脱炭素経営に対する意識が醸成されていったと感じています。

――「Zeroboard」を導入したことによる周囲の変化はありましたか?

取引先からの信頼向上にもつながっています。「Zeroboard」のことを知っている取引先も多く、「Zeroboardを使っているんですね」と共通の話題として話せる機会が多いです。

脱炭素経営に向けてPAS 2080以外のことにもチャレンジしています。例えば、2021年6月に日本初となるISO 19650-1およびISO 19650-2に基づいた 「設計と建設のためのBIM BSI Verification(検証)」 の認証を受けました。初期設計から建設、保守、最終的に廃棄に至るまで、デジタルモデリングを活用した建設資産のライフサイクル全体にわたる情報管理の仕組みで、社会の持続可能性向上に貢献するために受託組織として生産性を高めることにつながります。

他にも、2024年2月に日本が発行する「クライメート・トランジション利付国債」に投資をしました。これは、脱炭素社会への移行を目的に発行された国債で、脱炭素化に向けて積極的に取り組む企業にとって有利に働くものです。

また、株式会社商工組合中央金庫より「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」を実行していただきました。「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」とは、企業活動が環境・社会・経済に与える影響を分析し、ポジティブなインパクトの向上と、ネガティブなインパクトの緩和・低減に向けた支援のための融資です。環境や社会に対してポジティブなインパクトを与えようと思ったときに、脱炭素は大きなトレンドになります。「Zeroboard」でGHG排出量を算定していることが信頼につながり、資金調達しやすかったと感じています。

――脱炭素経営に向けた、今後の取り組みについて教えてください。

CO2排出量が従来の鉄鋼より大幅に少ない方法で製造された「グリーンスチール」を導入します。グリーンスチールを導入することで、コストアップしてしまうデメリットは否めませんが、今後は環境配慮に取り組まなければ税制優遇や資金調達の面で風向きが厳しくなっていくと感じています。だからこそ、いち早く取り組んでいきたいです。

グリーンスチールによる温室効果ガス排出量の算定事例はほとんどないため、算定方法も含めて私たちがモデルケースを作っていくことになるのではないかと感じています。PAS 2080の取得だけでなく、今後はその上位概念である国際規格「PAS 2060」にもコミットしていきたいと思います。

――今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

鉄骨ファブリケーター業界において、世界トップ企業を目指します。グローバルにビジネスを展開していくためには、環境対策が必要不可欠です。現在は国内の基準に合わせた脱炭素経営に力を入れていますが、今後はグローバルを視野に入れながら環境対策に取り組んでいきます。

そのために新たなチャレンジとして考えているのがGXと人的資本をつなげることです。まだ見えていない部分もありますが、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインである「ISO 30414」の認証を建築業界としては世界初の事例として取得するなど知見を蓄えています。必ず相関関係があると思うので、先手を打つ姿勢を変えずに環境対策を軸に業界をリードしていきたいです。