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中国製一色ではない住宅用太陽光-恐れずに屋根への設置加速を

目次

グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー

ゼロボード総研所長 待場 智雄

購入した古民家の改修を進める中でエネルギー自給をできる限り図るべく太陽光発電の導入を検討しているのだが、どの太陽光パネルを採用すべきか検討を始めると、意外に結構な数のメーカーがあることに気付かされた。 

太陽光発電に関しては傾斜地などに設置されたパネルが土砂崩れを引き起こすなどの災害や景観破壊への懸念のほか、「再エネ賦課金で国民負担が増える一方で中国を利する」*1「中国製の機器が送電網に接続されることで、サイバー攻撃などの標的となる可能性が高まる」*2などといった中国批判が昨今高まり、再エネの拡大に慎重姿勢を示す野党すら現れ始めた*3。確かに世界のパネル出荷は、ジンコ、JA、トリナ、ロンジ、トンウェイといった中国メーカーに上位9位のうち8社を独占されている(2024年上半期)*4

しかし国内の住宅用に限ってみると、生成AI(グーグルGemini)は「家庭用太陽光パネルにおいても、中国製の割合は非常に高いと考えられます」と答えて来るものの、実際はそうでもないようだ。住宅用パネル市場は、長州産業とハンファジャパンの2社を主軸に、国内外のメーカーがしのぎを削っているという。

長州産業は山口県山陽小野田市を本拠に給湯器メーカーとしてスタート、1998年から太陽光発電事業に乗り出し、パナソニック(当時は三洋電機)のHITという高性能パネルのOEMを手掛けていたが、今は国内の自社工場で太陽電池セルの原料となるウェハーからモジュールまで一貫体制で生産を続けている。国内補助金への対応力と、小型・正方形・台形のパネルを用意し、都会の狭小で複雑な形の屋根でも最大限に設置容量を確保できることから、売り上げを伸ばしてきたという。ソーラーパートナーズ社の施工店ネットワークの成約実績によると、とくに東京都内では蓄電池とセットで導入する場合、長州産業が3分の2を超える圧倒的シェアを誇っており(図1)、都の太陽光補助金の恩恵を大いに受けているのは、この国産メーカーのようである*5





図1 東京都内の住宅に設置された太陽光パネルのメーカー別シェア(2024年)
出典:ソーラーパートナーズ「部門別太陽光発電パネルメーカー比較ランキング 2025年住宅用太陽光パネル人気シェアランキング(東京都)」2025年6月17日公開*6


ハンファジャパンは韓国財閥の日本法人だが、ドイツのQセルズを買収して太陽光発電事業に乗り出し、日本市場にも2012年から進出、これまでに国内で15万棟以上の販売実績を誇る。日本向けに太陽光から電気への変換効率が高く、狭小で複雑な形状の屋根にも載せられる住宅用モジュールを含むオリジナルブランドRe.RISE®を展開している*7。これに続くのが、世界のパネル出荷上位に中国以外から唯一入っているカナダのカナディアンソーラーで、2009年から国内市場に進出、圧倒的な生産量と研究開発費で、性能が高いのに価格も安いという*8

かつて世界市場を席捲した大手のシャープ、パナソニック、京セラ、そして昭和シェル石油(現・出光興産)の子会社で国内で唯一非シリコン系の薄膜パネルを製造していたソーラーフロンティアが今でも活躍を続けている。京セラは中国自社工場から撤退して滋賀県野洲市で住宅用パネルを生産しているという*9。パナソニックは2021年に自社生産から撤退した後はカナディアンソーラーからOEM供給を受け、販売を継続している*10。このほか、エクソル、ネクストエナジー、新興のDMMエナジー、Looop(ループ)など日本の各社や米国のマキシオンが続く。つまり、ちまたの住宅メーカー、電力会社や施工業者を通じて太陽光発電を導入する場合(インターネットなどを通じて個人輸入すれば別だが)、中国勢の太陽光パネルに出会う可能性はむしろ低いと考えられる(図2)。




図2 住宅設置太陽光パネルのメーカー別割合
(ソーラーパートナーズ社の施工店ネットワークの成約実績、黒縁は日本メーカーの割合を示す)*11
出典:ソーラーパートナーズ「【2025年】中国産の太陽光パネルはやめたほうがいい?注目すべき国産パネルと海外産の性能・価格差を解説 日本の住宅用太陽光パネル市場の国産の割合は5割」2025年6月10日公開

太陽光パネルの設置には直流(DC)から交流(AC)に変えるためのパワーコンディショナー(パワコン)が欠かせない。これは中国製のものに遠隔操作が可能な通信機器が組み込まれているとの疑惑が報じられているインバーターであるが*12、ドイツのSMA、中国のファーウェイを除くとほぼ国内メーカーが主流となっているようだ*13。発電できない雨天時や夜間、災害時の供給を考えて蓄電池を併設する場合も、米テスラ、カナディアンソーラー、ファーウェイを除けば、多数の国内メーカー製品が採用されている*14

確かに国内メーカーといえど部品や製造は海外、とくに中国ということも多い。太陽光発電協会の最新の統計では、産業・メガソーラー用を含めた日本企業の太陽光モジュールの国内出荷のうち海外生産が占める割合は86%に上る*15。国際エネルギー機関(IEA)は2022年、太陽光パネルの主要製造段階での中国のシェアが8割を超え、サプライチェーンに不均衡をもたらしているとして、生産国の多様化を提言している。中でも、21年時点で主要素材のポリシリコンの世界の生産能力の79%を中国が占め、その42%はウイグル族への弾圧を含む人権侵害が危惧されている新疆ウイグル自治区にあるという*16

しかしここで忘れてはならないのは、上記に示したようにさまざまな選択肢があることだ。国内や中国以外の海外で生産されている製品もあるし、日本や欧米のメーカーであれば生産国の開示やデューデリジェンスの徹底を求めることも可能であろう。今回実際調べてみると、私自身もネット上にあふれる再エネに対する懐疑的な情報に惑わされていたことを痛感した。

現在太陽光発電を使用している世帯の割合は全国で6.3%(戸建住宅で11.7%)にとどまっている*17。第7次エネルギー基本計画では、2040年度に再エネが電源構成の4~5割、中でも太陽光は22〜29%まで上げる必要があり*18、そのためには屋根や農地、耕作放棄地、工場跡地、水上など既存平面への太陽光パネル設置の大幅な拡大が欠かせない。固定買取価格制度(FIT)による太陽光の売電価格は年々下がり続けているが*19、おひさまエコキュートを導入するなどして自家消費を中心にすれば経済メリットは高く、まだの方は恐れずに導入してほしい*20。2025年4月から東京都と川崎市で新築建物へのパネル設置が義務化されたが*21、他地域での普及拡大施策も期待したい。


*1 産経新聞「再エネ賦課金、年1万円負担増 『パネル』高シェアの中国利する?見直し機運も」、2024年4月21日 https://www.sankei.com/article/20240421-5VRUAFM3KFKGLBSPJOAJDHXF2U 

*2 産経新聞「中国製太陽光発電に不審な通信機器報道 立民・原口一博氏『内なる安全保障を』政府に警告」、2025年5月20日 https://www.sankei.com/article/20250520-U22NK63CT5EFJGIZHZ33Z2CUAU 

*3 産経新聞「『国破れてパネルあり』再エネ賦課金廃止も検討を…国民民主・玉木雄一郎代表が警鐘」、2024年4月10日 https://www.sankei.com/article/20240410-OTDEOGLDDVLGHF5JUWEFEKVH3U 

*4 National Renewable Energy Laboratory (NREL), Fall 2024 Solar Industry Update, October 30, 2004 https://www.nrel.gov/docs/fy25osti/92257.pdf 

*5 ソーラーパートナーズ「2025年太陽光パネルメーカー11社おすすめランキング」、2025年3月 https://www.solar-partners.jp/contents/171.html 

*6 同上

*7 ハンファQセルズウェブサイト https://www.q-cells.jp 

*8 ソーラーパートナーズ「2025年カナディアン・ソーラー太陽光パネルの特徴と相場価格」 https://www.solar-partners.jp/contents/179.html  

*9 タイナビ「京セラの太陽光発電の評判は?」、2025年2月21日  https://www.tainavi.com/library/4141 

*10 新日本エネックス「パナソニックの太陽光発電の口コミ・価格・特徴などを徹底解説!」、2023年2月14日 https://nj-enex.co.jp/column/869/ 

*11 ソーラーパートナーズ「中国産の太陽光パネルはやめたほうがいい?」、2025年6月10日 https://www.solar-partners.jp/contents/181439.html 

*12 産経新聞「中国製太陽光発電に不審な通信機器搭載 遠隔操作で大規模停電恐れ ロイター報道」、2025年5月19日 https://www.sankei.com/article/20250519-IXRZUIWGX5N6DKVMBSROR4PBOU 

*13 Metoree「パワーコンディショナ メーカー32社」  https://metoree.com/categories/2883 

*14 ソーラーパートナーズ「2025年家庭用蓄電池メーカー比較15社ランキング」、2025年6月11日 https://www.solar-partners.jp/contents/85620.html 

*15 太陽光発電協会「日本企業における太陽電池出荷量 2024年度第4四半期」  https://www.jpea.gr.jp/document/figure 

*16 日本経済新聞「中国、太陽光パネルの製造過程でシェア8割 IEA報告」、2022年7月7日  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07DHH0X00C22A7000000 

*17 環境省「令和5年度家庭部門のCO2排出実態統計調査結果について(確報値)」、2025年6月  https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/kateiCO2tokei.html 

*18 資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」、2025年6月3日https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/074_01_00.pdf 

*19 2025年4~9月期での容量10kW未満の売電価格は、1kWhにつき15円(10年間)。2025年10月からは、最初の4年間は24円、その後の6年間は8.3円となる。(資源エネルギー庁「買取価格・期間等(2025年度以降)」ウェブページ) https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html

*20 エコ発電本舗「2025年度(令和7年度)の太陽光発電の売電価格は?」、2025年5月30日 https://www.taiyoko-kakaku.jp/archives/3657.html 

*21 朝日新聞「新築住宅に太陽光パネル設置を義務化 全国初、東京都と川崎市で開始」、2025年4月1日  https://digital.asahi.com/articles/AST4121SVT41OXIE037M.html 

  • 記事を書いた人
    待場 智雄(ゼロボード総研 所長)

    朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりGRIの審議機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事、2025年3月よりGHGプロトコルTWGメンバーを務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。