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政策を“経営戦略”として読む─高市政権の経済政策に見るサステナ経営の羅針盤

目次

株式会社Linkard上級執行役員
吉川 真布

はじめに:政策動向を読み解く力がサステナ経営を左右する

経営者にとって国の政策は、市場の前提を変えたり、投資の方向性を規定したりするもので、数年先の競争環境をつくる重要なファクターといえる。今回は2025年11月21日閣議決定された秋の経済対策1)から、環境・デジタル・人材といった企業のサステナビリティに関する政策に着目し、経営者は高市政権の経済対策から何を読み取り、どう動くべきか、解説する。

秋の経済対策と補正予算:毎年の“政策の節目”を捕らえる

日本では例年、秋に大規模な経済対策が策定され、その裏付けとなる補正予算が組まれる。これは翌年度以降の政策の“前倒し実装”という性格を持ち、ここで示される政策の方向性は翌年度の補助金や税制改正とも連動するため、企業の設備投資、人への投資といった経営戦略にも影響する。

とくに今回の経済対策は、新政権が発足して初の経済対策となったため“高市カラー”も反映され、注目を集めた。

秋の経済対策で、何が決まるのか

秋の経済対策では、主に次のような分野に関する政策の方針が示される。

  • GX(脱炭素・エネルギー転換)

  • DX(AI・デジタル化・データ連携)

  • 半導体・サプライチェーン強化

  • 人材投資・リスキリング

  • 中小企業支援・設備投資

  • 防災・国土強靱化

  • 物価高対策・生活支援

これらの政策の中身や予算の配分を見ることで、今後の成長分野や、「IT導入補助金」「GX関連補助金」といった補助金の動向、重点投資テーマを読み取ることができる。さらに、銀行や投資家は、経済対策・補正予算で重点化された分野を「国が後押しする成長分野」「融資・投資リスクが相対的に低い分野」と判断するため、資金調達環境にも影響する。

今秋の経済対策のポイント:GX・DX・人材投資の強化

サステナ政策の観点からみた今年の経済対策のポイントは、GX、DX、人材投資の強化にある。おおむね、昨年の経済対策よりも進んだ内容となっている。企業にとっては、この3分野に関する政策の方向性を知ることで、環境に配慮しながら、人手不足の中で業務を効率化し、能力のある人材を継続的に活用していくという持続可能な経営のヒントを得られるはずだ。

 GX:脱炭素を“コスト抑制”から“成長の基盤”へ

今回の経済対策では、GXが「環境対策」「コスト抑制」だけにとどまらず「産業競争力と成長の基盤」として位置づけられていることが分かる。

たとえば、2024年の経済対策では「エネルギーコスト上昇に強い経済社会の実現」と題した項目の中で2050年カーボンニュートラル、GXの実現に向けた取り組みの加速がうたわれたが、今回の経済対策ではGXが一項目に留まらず成長戦略の一環として位置づけられる傾向が強くなった。

具体的には、経済対策において主に以下の政策を掲げている。

  • GX投資を促す金融支援強化

  • 電気自動車(EV)の購入促進といった需要側でのGX市場創出

  • 国際競争力のある価格での持続可能な航空燃料(SAF)の確保の推進

  • 二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の事業化に向けた支援

DX:AIを活用した産業横断の構造改革

秋の経済対策では、各産業のデジタル化が後押しされているほか、AIや半導体といった戦略産業基盤の強化も強調されている。

とくにAIに関しては、主に次のような政策が掲げられている。

  • 大胆な規制改革を含む施策を内外一体で進め、国内研究開発の強化と社会実装の促進

  • 「AI for Science」(AI技術を科学研究のあらゆる段階に適用し様々な分野で活用する取り組み)の戦略方針を2025年度内に策定

  • 日本が強みをもつ産業とAIを融合した多様なサービスの創出、積極的な海外展開

  • 世界最先端のAIロボティクスを通じ、人手不足の解消、生産性向上を実現

人材投資:リスキリングから「変革推進人材」の育成へ

人材投資をめぐって政府は、業務再設計・事業変革を担う人材への支援を強化。単なるスキル取得に留まらず、企業内の新規事業などを担う人材育成が政策のテーマになりつつある。

実際に経済対策の中でも、産業変革を担う人材の育成や構造転換を支える人的資本への投資を見据えている。

経済対策における人材投資関連の政策は、主に以下の通りだ。

  • 生成AIの進化も踏まえ、足元・将来のスキル需要や教育訓練給付等の支援策の実績・成果の検証を行い、支援策の見直しや重点化を検討

  • 人材開発支援助成金について、事業主にとって利用しやすいよう、申請項目や添付書類の削減等の効率化を検討

GX・DX・人材投資に関する補助金

GX・DX・人材投資を推進するため、政府はこれまでもこうした分野の補助金を出し、積極的に後押ししてきた。今回の経済対策でさらなる充実が掲げられた補助金もあり、来年度に向けても継続・拡充が期待される(下記表―2025年11月末時点。中には公募が休止していたり、要件が変更になったりするものもあるため、最新の情報は各支援制度のHPで確認してほしい)。

表: GX・DX・人材投資関連の代表的補助金

補助金名主な対象補助率・
規模の目安
特徴ポイント
GX(脱炭素・省エネ)系
省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金2)高効率空調、高性能ボイラー、エネルギーマネジメントシステム機器1/3〜1/2法人・個人事業主の省エネ対策を支援設備の性能だけでなく「省エネ成果の見える化」も重視されている。今後、産官学連携でGXに取り組む「GXリーグ」参加メーカーへの補助金上限を増額するなどの拡充が予定されている4)
事業再構築補助金(成長分野進出枠(GX進出類型))3)太陽光発電、カーボンリサイクルなどの事業賃上げを行う場合、最大1.5億円規模グリーン分野での事業再構築を行う事業者を支援
DX(デジタル化・AI・業務改革)系
IT導入補助金5)在庫管理システム、決済ソフト、会計ソフト、パソコン1/2以内などオーソドックスなDX補助金事業の一般的なデジタル化に限らず、セキュリティ対策、複数の事業者が連携した地域DXの推進も対象となっている
人材投資(教育・賃上げ・リスキリング)系
人材開発支援助成金6)DX研修、技能訓練費用+賃金補助対象となる人材投資が幅広い大規模な事業改革に向けた人への投資を後押ししている。
キャリアアップ助成金7)正社員化・処遇改最大80万円/人賃上げや非正規労働者の正社員化と連動

企業にとっての実務インパクト:政策をどう読み、どう動くか

経営者にとって重要なのは、政策をただ読むだけでなく、いかに自社の戦略に生かしていくかということだ。とくに以下の3点を意識してほしい。

① 経済対策で未来の市場を先読み

秋の経済対策から、“政府がどの分野をどのように伸ばしたいか”が見てとれるため、今後の市場動向を読む手掛かりになる。

② 要件分析を通じて、自社の弱点を可視化

補助金の申請要件は「政府が産業に求める能力」であり、不足部分は企業にとって“ビジネス上の弱点”になりうる。最近では、省エネ効果の見える化、内部統制などが補助金申請の際に求められることも多い。

③ 複合的なサステナ経営で、補助金を最大限活用

GX補助、DX支援、人材投資に一体的に取り組むことで、同じ補助金でも補助額が最大化されることがある。GX・DX・人材投資を複合的に取り入れたサステナ経営を目指したい。

まとめ:政策から企業戦略の方向性を見据える

経済対策・補正予算に示された政策テーマは、政府が“日本企業はこの方向へ進んでほしい”と示す国レベルの戦略だ。今回の経済対策では、GXや人材への投資を成長戦略や産業構造の転換の一環として位置づける色合いが強くなった。DXにおいてもAIや半導体といった産業の強化が強調されており、まさに高市政権が力を入れる「強い経済」の実現が前面に打ち出されているといえよう。

この方向性を取り込んで経営を行う企業は、外部環境の変化を先取りでき、経営基盤が確固としたものになるため、結果的に取引先・金融機関からの評価も高まるだろう。補助金や支援策を複合的に、かつ最大限利用しやすくなるというメリットもある。

政府が定める政策は、企業戦略の方向性を考えるうえで欠かせない材料だ。そして秋の経済対策には、その最新情報が詰まっているため、読み込んだうえで、サステナ経営を実践していくことが求められる。

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資料ダウンロード

1) 内閣府『「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~』、令和7年11月21日閣議決定文書www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/1121_taisaku.pdf

2) 一般社団法人環境共創イニシアチブ「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」https://syouenehojyokin.sii.or.jp/124business/

3) 中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構(株式会社パソナ) 「事業再構築補助金」 https://jigyou-saikouchiku.go.jp/ 

4) 経済産業省「令和7年度省エネ支援パッケージ」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/government/data/package_r7.pdf

5) 中小企業庁・独立行政法人中小企業基盤整備機構(TOPPAN株式会社)「IT導入補助金2025」 https://it-shien.smrj.go.jp/  

6) 厚生労働省「人材開発支援助成金」 www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html  

7) 厚生労働省「キャリアアップ助成金」www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html 

  • 記事を書いた人
    吉川 真布(株式会社Linkard 上級執行役員)

    2015年、朝日新聞社に記者として入社。神戸総局、岐阜総局を経て、2019年に本社政治部に異動後は、首相官邸や自民党、立憲民主党を担当。教育政策や経済政策の政策決定過程や、国会運営、国政選挙などを取材。2023年にLinkard Groupに参画し、金融教育・リスキリング事業統括として、幅広い世代に向けて教育・キャリア支援サービスを提供。 東京大学教育学部卒業、放送大学大学院社会経営科学プログラム修士号取得。