ESG関連データの収集・管理・開示支援なら

インサイト

地域金融機関におけるTNFD開示検討の実務的論点― 琉球銀行の取り組みから得られた示唆 ―

目次

ゼロボード総研 自然資本チーム 石森昌子 鍋島美月

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言公表以降、金融機関においても自然関連リスクおよび機会をどのように整理し、情報開示に反映させるかが重要な検討テーマとなっています。本稿では、琉球銀行の事例をもとに地域金融機関がTNFD開示に取り組む際の実務的論点を検討します。

なぜ地域金融にTNFDが必要なのか:自然と経済の不可分性

一般に金融機関にとって、自然への依存や影響は川下の投融資先企業を通じて発生します。地域金融機関にとって、投融資先企業が所在する場所はある程度限られているため、その地域の自然の特徴や産業特性によって、自然関連課題は変化します。地域金融機関がTNFDに取り組む意義は、この地域経済と自然との相互依存関係を定量・定性的に把握し、地域の持続可能性を融資ポートフォリオの観点から管理できることにあります。地域金融機関にとって、TNFD提言への対応は、地域資源の価値を再発見し、未来に向けた強靭な地域の経済基盤を構築するための羅針盤となることを示唆しています。

琉球銀行のTNFD開示の特色

琉球銀行は、沖縄の豊かな自然環境を単なる保護対象ではなく、観光産業 を主軸とする地域経済の持続可能性を支える重要な「資本」として明確に定義しています。「自然環境が破壊されれば主力産業は成り立たない」一方で、「生産性が低ければ環境保全に貢献できない」という相互依存性を経営のマテリアリティ(重要課題)として捉え、「沖縄の自然とビジネスの関わり」という独自のストーリーに基づいた開示に取り組んでいます。一貫したストーリーのもと、LEAPアプローチを誠実に行い、そのプロセスと共に、投融資先を通じた自然関連の依存・影響・リスクを開示しています。

引用:琉球銀行「統合報告書2025」, P83, 2025年8月8日発行

LEAP分析の実務上の論点

琉球銀行のTNFD開示の過程で見えてきた実務上の重要な論点は以下の3点です。

1)スコーピングの実施

金融機関と自然資本との関わりは、自社の直接操業よりも、投融資先を通じた活動がメインとなります。そのため、評価範囲を検討する「スコーピング」を行わなければ、分析対象が非常に多岐にわたり、実効性のある分析が困難となります。

琉球銀行では、依存と影響のスクリーニング後に、融資残高割合や沖縄の産業構造、自然への影響度を総合的に判断し、優先セクターを「不動産業」「建設業」「宿泊・飲食業」の3業種に絞り込み、詳細分析を行っています。この「絞り込み」こそが、リソースの限られる組織での実務の鍵となります。

2)既存ツール活用の限界

一般に使用される「ENCORE」などの自然への依存・影響を評価するグローバルツールの活用は、一般的な傾向を把握する、初期スクリーニングの段階で有用です。

一方、地理的特性が反映されないため、どの地域の金融機関が実施しても同様の結果となってしまい、ツールの分析結果だけで判断することは困難です。

そのため、実務においてはこうしたツールの限界を理解した上で、ツールによるマクロな評価を起点としつつ、事業特性や産業特性、場所固有の自然の状態を掛け合わせた、「解釈」のプロセスが不可欠です。

引用:琉球銀行「統合報告書2025」, P86, 2025年8月8日発行

3)優先セクターの特定とリスクの深掘り

スコーピングや初期のスクリーニングで特定した優先セクターは、あくまで自然関連課題が大きい可能性のあるセクターです。地域の環境特性を反映した分析を行うことで、初めて具体的なリスクが浮き彫りになります。

例えば、沖縄特有の台風や地滑りによる「自然災害リスク」、地域資源に依存する産業ゆえの「風評リスク」など、地域金融機関がこれまで肌感覚で捉えていたリスクを、TNFDのフレームワークを通じて構造化することが可能となります。

地域金融機関とTNFD活用:エンゲージメントと機会の創出

地域金融機関がTNFDを推進する上での核心的な論点は、分析結果をいかに「取引先とのエンゲージメント」と「ソリューション提供」に繋げるかです。

1)気候変動リスクと自然資本リスクの統合的な管理

自然資本の毀損は、投融資先の事業存続リスクを通じて銀行の与信コスト増加や担保価値(不動産)の毀損に直結します。沖縄のような島しょ地域では、気候変動とサンゴ礁の白化等の自然資本が密接に関係しています。このような地域では、これらを統合的に管理する視点が不可欠です。

2) 機会としての転換

 分析を通じて得られた知見は、環境にポジティブな影響を与える事業への資金供給強化に繋がります。琉球銀行では、サステナブル投融資方針を策定し、自然配慮型の投融資の促進に取り組んでいます。

 琉球銀行 統合報告書2025はこちらに公開されています。

https://www.ryugin.co.jp/common/uploads/integrated2025.pdf



琉球銀行は、TNFDフレームワークを参照しながら、自然関連リスク・機会の整理および情報開示について、行内での検討を主体的に進め、自然資本情報開示をされました。

その検討プロセスにおいて、株式会社ゼロボード総研は、LEAPアプローチの考え方整理に関する情報提供や、開示内容について外部専門家の立場から意見を共有いたしました。

本取り組みは、地域金融機関が自らの事業特性や地域性を踏まえつつ、TNFDフレームワークを実務に落とし込む際の検討プロセスを示す一例です。

ゼロボード総研は、こうした事例から得られた知見を今後の調査・研究活動に活かし、企業による主体的なネイチャーポジティブ経営の検討に貢献してまいります。



ゼロボード総研の自然資本に関する取り組みは下記URLからもご覧いただけます。

https://www.zeroboard.jp/service/zri#naturalcapitalresearchgroup

以上


  • 記事を書いた人
    石森 昌子(ゼロボード総研 シニアフェロー)

    製造業/技術部門にて、環境監査、容器リサイクル法、CFP算定、コーポレート部門にてESG情報開⽰及び評価対応、マテリアリティ特定、人権方針策定等、サステナビリティ経営業務に16年間従事。ESG経営アドバイザリー及び自然資本情報開示のリサーチを担当。明治大学大学院 農学研究科 博士前期課程修了 修士 (農学)

  • 記事を書いた人
    鍋島 美月(ゼロボード総研 アナリスト)

    2017年より環境NGOに所属し、教育普及・会員管理・財務経理・総務等々担当。自然資本情報開示のリサーチを担当。筑波大学 生命環境学群 生物資源学類卒業(森林生態学)