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ESGは野心から行動・システム変革へ―国連グローバル・コンパクト新5カ年計画の示唆

目次

グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事 
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー
ゼロボード総研所長 待場 智雄


2026年1月半ば、国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限まで残り5年間の活動計画『2026–2030戦略』*1)を発表した(図3)。解決にはほど遠い気候変動の激化、格差の拡大に加え、ここ数年で急速に高まる地政学的な不安定性の下、国連や政府が解決策を提示する力さえ失っている。いかなるセクターも単独では解決できない複雑な課題が山積する世界において、企業の重要な役割を再認識し、その行動の実効性を高めることを目的として作成された。欧米を中心に風当たりが強くなっているものの、サステナビリティ・ESGはすでに企業の競争力と存続を左右する重要な経営ファクターとなっていることは揺るがせない事実である。本稿では、この新たな戦略を紐解き、他の国際的開示フレームワークと並んで、日本企業がUNGCへの参画を通じてサステナビリティをいかに経営に実装していくべきかについて考察する。

グローバル・コンパクトの成長

国連グローバル・コンパクトとは、人権、労働、環境、腐敗防止の4分野にわたる「10 原則」(表1)と、SDGsなどの「国連2030アジェンダ」を基盤とする。2000年7月に当時のアナン国連事務総長の提唱で発足、世界最大級のサステナビリティに関する企業イニシアティブに成長した。それまでサステナビリティを実現するアクターとしては、各国政府・自治体や労組、NGOが主に想定され、国連での議論にも関わってきたが、当時、多国籍企業の社会課題への積極的な関与に期待が寄せられ始めた。現在では、160カ国以上から23,000以上の企業が参加。5つの地域ハブと60を超える各国ネットワークを通じて活動を展開している*2)

表1: 国連グローバル・コンパクトが署名企業に求める4分野10原則*3)

日本におけるネットワークである「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン」(GCNJ)には、2026年3月時点で681の企業・団体が加盟している。GCNJは、「コレクティブ・アクション(協働行動)2030」という枠組みの下、バリューチェーン・マネジメント、気候変動・生物多様性、公平な働き方、人権・労働、腐敗防止などのテーマごとに分科会活動を推進している。グローバルな野心をローカルな行動へと落とし込み、会員企業間のネットワーク構築や集合的インパクトの創出を長年支援してきた*3)

UNGC加盟企業が10原則に基づきSDGs達成に向けた活動を質問票に沿って毎年報告する「進捗報告」(Communication on Progress、CoP)は2023年にデジタルプラットフォーム化され、ギャップ分析や目標設定を含む定量・定性的な情報開示が必須化された。世界で約1万1,000件の提出を数えるなど、企業の透明性向上と市場における説明責任の強化に大きく寄与してきた*4)。また、SDGs達成に向け、企業に9つの具体的ゴールへの行動加速を求める新たな枠組み「Forward Faster」(より速く、より前へ)イニシアティブが登場、1,600社以上の企業が気候変動やジェンダー平等、生活賃金などのコミットメントを推進している(図1)*5)。2025年には、国連創設80周年、UNGC創設25周年、そしてSDGs達成まで残り5年という重要な節目の年を迎えた。

図1: SDGs達成に向けた9つのゴールへの参加企業各社のコミットメントを表示する
Forward Fasterのウェブサイト*5)

5か年計画策定の背景と概要

企業のサステナビリティに対する野心を単なるコミットメントのみならず、「測定可能な成果とシステムレベルの変革」に結び付けることを目指したのが、今回の『2026-2030戦略』である。2020年にケニアの通信会社サファリコムからグローバルサウス初のCEOに就いたサンダ・オジャンボ国連事務次長補は、「監視が厳しくなり期待が変化し続ける世界においては、責任あるビジネスこそがレジリエント(強靭)である」と、新戦略の背景を端的に述べている*6)。UNGCとアクセンチュアが128か国の署名企業のCEO約2,000人を対象にまとめた『CEO調査報告書2025』によると、88%の経営者が「サステナビリティに投資するビジネスケース(投資対効果の根拠)は5年前よりも強まっている」と回答している。AIの急速な普及とデータセンターの拡大がエネルギーや水資源への圧力を高める中、気候変動に注力していないとみなされてきた企業でさえ、効率化やレジリエンスへの投資を加速させている*7)

他方、ロシアによるウクライナ侵攻やトランプ米大統領の再登板による地政学的リスクの高まりが、様々なサステナビリティ課題への対応やSDGsの進捗に暗い影をもたらしている。政治情勢が急速に変化したことに加え、根強いインフレや進化する規制環境が企業経営に重圧としてのしかかり、欧州ではその反発に対応すべく「オムニバス・パッケージ」を通じたグリーンディール政策の簡素化が決まった。しかし、環境面では記録的な熱波などの深刻な気候災害が頻発し、気候変動緩和対策と適応の遅れが浮き彫りになっている。日本企業にとっては、自社単独では解決できないサプライチェーン全体を巻き込んだ人権・環境デューデリジェンスやGHG排出量削減(とくにScope 3)の推進において、実務上の壁に直面しているのが実情である。

こうした背景のもと策定された『2026–2030戦略』は、以下の3つの戦略的重点分野を中核としている*1)

1.    企業に行動する力を実装する: 企業の規模や所在地に合わせたデジタル支援を通じ、科学的根拠に基づく目標設定や人権デューデリジェンスなどを事業運営へ統合する。

2.    協働行動を仲介する: 政策の流動化や資金不足といった制度的障壁に対処するため、市場や産業を超えた企業主導のマルチステークホルダー連合を形成する。

3.    ビジネスケースを前進させる: 2007年にUNGCが提唱した責任経営教育原則(PRME)*8)などと連携し、責任ある経営が企業の長期的価値創出に直結することを示すデータ基盤を整備する。

さらに、民間セクターの牽引が不可欠な「4つの高インパクト分野」である、①気候と自然、②ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と生活賃金、③ジェンダー平等、④サステナブル・ファイナンスにリソースを集中させ、CEOレベルの提言やサプライヤーへの基準展開を通じて変革を加速させる方針とする。

特に強調されているのは、デジタルプラットフォームと「データ駆動型アプローチ」の全面的な活用である。刷新されたCoPは単なる報告ツールではなく、比較可能な情報開示、他社とのベンチマーク、そして意思決定に役立つインサイトを提供するプラットフォームへと進化(図2)。これにより、企業は自社の立ち位置を客観的に把握し、「サステナビリティと収益性は相互に補完し合う」というエビデンスを取締役会や投資家に提示することが可能になるという。UNGCはこれにより、企業が環境・社会課題への対応をコストではなく、「戦略的投資」とすることを強く後押ししようとしている。

図2: UNGC年次進捗報告(CoP)のデジタルプラットフォーム*9)

他の国際フレームワークとの併用

ここで整理しておきたいのが、様々な開示フレームワークとUNGCの新戦略やCoPとの違いおよび相互補完性である。

国際サステナビリティ開示基準(IFRS S1/S2)や日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準、欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)をはじめとする各国の法的な開示規制や、自主的開示基準のGRIスタンダードは、「どのような情報を、どのような基準で算定し、開示すべきか」というHow(方法)やWhat(結果)に焦点を当てている。これらは主に、財務的マテリアリティやインパクト・マテリアリティに基づき、投資家や幅広いステークホルダーに対する透明性の確保を目的とするツールである。

一方、UNGCの10原則と新戦略とそれに基づく進捗報告(CoP)は、企業がなぜ(Why)サステナビリティに取り組むべきかという経営の根本的な価値観を提供し、その原則をどのように事業プロセスやサプライチェーンの行動に変えていくかという「行動とシステム変革のプロセス」に重点を置いている。

したがって、これらは二者択一ではなく、統合して活用されるべきものである。企業はUNGCのネットワークやツールを活用して自社の野心と目標を設定し、実質的なシステム変革(協働行動やサプライヤー・エンゲージメントなど)を推進する。その結果として蓄積された環境・社会データを、SSBJやGRIなどの基準に則って客観的かつ精緻に算定・開示し、さらにUNGCのCoPプラットフォームに入力することで、グローバルなベンチマークの獲得と投資家へのアピール材料とする。そして、この実践(UNGC)と開示(IFRS S/SSBJ/GRI/CSRD)の両輪を回す要となるのが、社内外のESG情報を正確に収集・一元管理できる強固なデータマネジメント基盤の構築なのである。

日本企業は新戦略をどう活かせるか

『2026-2030戦略』は、日本企業にとってサステナビリティ経営の「実装とシステム変革」に向けた羅針盤とすることができるだろう。

第一に、UNGCが提供するデジタル学習やCoPのベンチマーク機能を積極的に活用し、自社の現在地とグローバル基準とのギャップを客観的に把握することである。特にネットゼロはもちろんのこと、ネイチャー・ポジティブへの移行やサプライチェーン上の人権尊重は、日本企業がグローバル市場で競争力を維持するための必須要件となっている。

第二に、自社単独での取り組みを超え、GCNJを通じた協働行動に参画することである。GCNJは今後、本部の新戦略と連動し、4つの高インパクト分野に基づく実践的なソリューション創出と分科会活動をさらに強化していくだろう。企業同士が連携し、政策提言や業界横断型のルール作りに関与することで、一社では打破できない制度的障壁や、サプライチェーン上の課題を乗り越えることを可能にできる。

第三に、ビジネスケースを証明するためのデータマネジメントの高度化である。Scope 3排出量の精緻な算定や、サプライヤーに対する環境・人権デューデリジェンスの実践には、一次データの収集と一元管理が不可欠である。散在するESGデータを統合的なシステムで管理・可視化することこそが、複雑化する開示規制へのコンプライアンスを満たしつつ、サステナビリティが競争優位の源泉となることを証明し活かしていくする最短の道となる。

図3: UNGCの2024-2025前戦略*10)と新しい2026-2030戦略*1)

データ基盤構築で信頼と競争力の獲得を

オジャンボCEOが述べる通り、「責任あるビジネスはサイドプロジェクトではなく、長期的な価値創造と、より安定して投資可能なグローバル経済の中核」である*11)。地政学的な緊張や経済の不確実性が高まる昨今において、10原則に基づき、レジリエントなサプライチェーンの構築、省エネ・再エネの着実な拡大、そして人的・自然資本への投資を堅持する企業こそが、次なる成長を主導するだろう。

本戦略で示された「野心から行動への転換」と「ビジネスケースの証明」は決して容易な道のりではない。しかし、強固なデータ基盤を味方につけ、実践と開示の両輪を回すことで、日本企業はグローバル市場において揺るぎない信頼と競争力を獲得できるはずである。始まったばかりの次の5年間を、SDGsの達成を後押しできるような自社と社会の持続的な発展の期間としていただきたい。

*1) United Nations Global Compact (UNGC), UN Global Compact Strategy 2026-2030, New York, 2025. https://info.unglobalcompact.org/strategy_260109

*2) UNGC website. https://unglobalcompact.org

*3) グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)ウェブサイト https://www.ungcjn.org

*4) UNGC「コミュニケーション・オン・プログレス(CoP)2024インサイト・レポート」(日本語版)、2025年 https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=736 

*5) UNGC, Forward Faster website. https://forwardfaster.unglobalcompact.org

*6) UNGC, UN Global Compact Strategy 2026-2030 website. https://info.unglobalcompact.org/ungc_strategy 

*7) GCNJ「国連グローバル・コンパクトおよびアクセンチュアによるCEO調査報告書2025刊行」、2025年10月6日 https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=744 

*8) UNGC, Principles for Responsible Management Education website. https://www.unprme.org 

*9) UNGC, The Communication on Progress website. https://unglobalcompact.org/participation/report/cop 

*10) UNGC, UN Global Compact Strategy 2024–2025: Global Strategy Extension, New York, 2023. https://kss.unglobalcompact.org/what-is-gc/strategy&nbsp

*11) UNGC, “UN Global Compact Unveils 2026–2030 Strategy to Turn Corporate Ambition into Action”, press release, 13 January 2026. https://unglobalcompact.org/news/un-global-compact-unveils-2026-2030-strategy-turn-corporate-ambition-action&nbsp

  • 記事を書いた人
    待場 智雄(ゼロボード総研 所長)

    朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりGRIの審議機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事、2025年3月よりGHGプロトコルTWGメンバーを務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。