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「4つのステートメント」が変える排出算定・開示-GHGプロトコル「行動と市場手段」(AMI)ホワイトペーパー
(コメントは6月15日まで受け付け)

「4つのステートメント」が変える排出算定・開示-GHGプロトコル「行動と市場手段」(AMI)ホワイトペーパー<br>(コメントは6月15日まで受け付け)
目次

GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー
グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)副議長
ゼロボード総研所長 待場 智雄

世界中の企業はこれまで、自社の温室効果ガス(GHG)排出量を、「GHGプロトコル」が定める組織のインベントリー(Scope 1~3)に準拠した形で算定・報告してきた(国・地域の報告制度は多少異なる)。Scope 2(他者から供給された電気・熱・蒸気・冷熱を使用したことによる間接排出)の「マーケット基準」ではいわゆる非化石・再エネ証書などエネルギー属性証書(EAC)によって排出量ゼロとみなせる一方で、企業の脱炭素施策は年々多様化しており、グリーンスチール・アルミや持続可能な航空燃料(SAF)やバイオ・合成燃料といった低炭素素材・燃料や、低炭素製品の使用による削減効果(いわゆる削減貢献量)、カーボンクレジットなどを数字に公に反映させる手段が限定されていることが、企業側の不満をもたらし、その努力を妨げる要因になりかねないことが懸念されてきた。

2026年3月、GHGプロトコルの改定の一環である「行動と市場手段」(AMI: Actions and Market Instruments)に関する専門作業部会(TWG)の前半(フェーズ1)議論の結果をまとめた「ホワイトペーパー」*1)が公表され、2026年6月15日まで意見募集(RFI)が行われている(当初の5月末から延長)。本稿は、筆者とともにTWGに日本から参加する日本鉄鋼連盟技術・環境部地球環境グループリーダーの川又広実氏(AMI TWG)、自然エネルギー財団シニアマネージャーの高瀬香絵氏(Scope 2 TWG)をゲストに迎えて5月14日開催した弊社ウェビナーの内容を採録し、実務担当者向けにホワイトペーパーの要点を整理した。

GHGプロトコル改定の背景とプロセス

GHGプロトコルのコーポレート基準(2004年)*2)、バリューチェーン(Scope 3)基準(2011年)*3)、Scope 2ガイダンス(2015年)*4)の発行からかなりの年月が経ち、国際的な開示の義務化(IFRS S/SSBJ、CSRD/ESRS)、ネットゼロ目標設定(SBTi)、上記のような「市場手段」の登場や様々な脱炭素行動の実践、そしてScope 3理解の進化と算定の広範な普及など、企業を取り巻く環境は大きく変わった。2022~23年のグローバルなステークホルダー調査を経て、基準全体の大幅な見直しが進行中である*5)*6)

GHGプロトコルの改定は、組織算定開示の全体を司るコーポレート基準、Scope 2、Scope 3(事業者の活動に関連する他者の排出)の現行基準・ガイダンスごとの3つの専門作業部会(TWG)に加え、新規のAMIに関するTWGがあり、各TWGはさらに特定の課題を議論するサブグループに分かれている(筆者が参加しているのは、コーポレート基準TWGでデータの信頼性などを議論するサブグループ3)(表1)。

表1:GHGプロトコル改定各TWGの議論テーマ

注:当初計画による議論範囲を示すもので、議論が進む中で修正の可能性あり。
GHGプロトコル基準開発計画*7)を基にゼロボード作成

2025年9月には、ISOとGHGプロトコルの戦略的提携が発表され、今後GHG算定に関するISO 1406X規格群との統合を図り、共同ブランドの国際規格となるという*8)。このため、各TWGには気候変動関連規格を審議するISO/TC 207/SC 7の代表が参加、日本からはScope 3 TWGに日本LCA推進機構理事長の稲葉敦氏が加わった。2025年から各TWGの議論が始まり、現在前半戦のフェーズ1が終了した領域(Scope 2、AMI)からパブリックコンサルテーションやRFIが進んでいるところ。Scope 1~3を巡る基準の改訂版完成は2027年末頃、AMI基準は2028年末頃、実務上の完全実施は2030年頃と見られる*9)

今回のAMIのホワイトペーパーはまだ要求事項を含む基準草案ではないため、正式なパブリックコンサルテーションではなく、基準をドラフトする前の中間成果に対して特別に設けられたコメント期間である*10)。そのため、公開された内容が即基準となるわけではない点に注意が必要であるとともに、日本の企業やステークホルダーの実情に合う内容になるよう、大筋が固まる前の今の段階でコメントしておくことは重要である。

AMI議論の背景

AMI作業の出発点は、ビジネスと社会の実情に合わせてGHGプロトコルをアップデートすることにある*11)。現行基準は、あくまでも事業者の活動自体が直接・間接に作り出すGHGの排出・吸収量を収集する「物理的インベントリー」(帰属的算定)を中心に据えてきた。一方で、Scope 2のマーケット基準においては、購入エネルギーについて市場手段(証書)による排出量ゼロの主張を認めてきたが、Scope 1, 3では同様の枠組みがなかった。

また昨今、バイオメタン、eメタン、SAF、グリーンスチール・アルミといった、マスバランス、ブック&クレームなどの「チェーン・オブ・カストディ」(CoC: 管理の連鎖)を用いて低炭素素材や燃料を主張するアプローチが各業界から提案されてきた*12)。このような市場手段による自社Scope 1, 3排出量の相殺需要に加え、WBCSDの削減貢献量ガイダンス*13)やIEC 63372(電気・電子製品における削減貢献量)*14)など、高性能の製品・サービスの普及によって製品の下流や社会全体の削減を示す動きもある。

こうした「現状の物理的インベントリーの外にあるが、投資判断やステークホルダーの評価に重要な情報」を、透明性と整合性を損なわずに報告する枠組みが求められ、AMI TWGでは「マルチステートメント」型の報告構造が中間案として整理された*1)。同TWGに参加する川又氏は、現行基準の根幹が置き換わるのではなく、「物理的インベントリーを基軸としつつ、補完する情報レイヤーが追加されるという理解が適切だ」と述べている。自社排出量の経年変化を見る帰属的算定(インベントリー)に対し、プロジェクトを単位とし、設定した現状シナリオに対して特定の行動(介入)がもたらす削減(もしくは増大)効果を測る「結果的算定」は、あくまでも明確に切り離して考える必要がある(図1)*15)

図1:インベントリー(帰結的)算定と結果的算定の違い
GHG Protocol Land Sector and Removal Standard (p.91, Figure 16.1)*16) を基にゼロボード作成

ホワイトペーパーの概要─4つのステートメント

AMIホワイトペーパーは、物理的インベントリーに加えて、それを補完するマルチステートメント構造を提案している。検討中の4つのステートメントは、以下の通りである(図2)*1)

図2: 提案された4つのGHGステートメント
AMIホワイトペーペー*1)を基にゼロボード作成

第1ステートメント(物理的GHGインベントリー)は従来のScope 1~3で、組織と組織の活動に起因するバリューチェーン上の排出量(除去含む)を指し、引き続きGHGプロトコル上の算定・開示の基盤である。Scope 2においては、物理的な立地ベースでの排出量を反映する「ロケーション基準」が適用される。排出量のアロケーションなしに物理的に低炭素の素材・製品が確保できる場合のみ、その排出源単位をScope 3に充てることができる。

第2ステートメント(市場ベースGHGインベントリー)は、Scope 2マーケット基準手法をScope 1, 3に拡張し、調達上の選択による排出量の違いを可視化する枠である。CoCモデルなどに基づく低炭素燃料・素材の証書、契約(今後の議論で認められる場合、GXスチール*17)、グリーンガス証書*18)、SAF証書*19)など)が想定される。既存のScope 2マーケット基準については、Scope 2 TWGで別途議論が続いており、AMI TWGではScope 2の報告要件そのものは変更しない。マーケット基準での報告箇所が第2ステートメント側に整理され、依然主評価軸となる第1の物理的インベントリーから切り離されることへの懸念は残るかもしれない。

第3ステートメント(GHGインパクトステートメント)は、インベントリー法(帰属的算定)と一線を引いた結果的算定の専用枠である。プロジェクト・投資・製品等によるGHG排出の回避・削減・除去を扱い、その効果範囲によって、組織境界内、バリューチェーン内、セクター関連、グローバル(セクター・バリューチェーン外)、販売製品使用によるインパクト(例: 製品使用時の削減効果)などのカテゴリー分けが検討されている。カーボンクレジットの位置づけもここで明確化される見込みである。

第4ステートメント(非GHG指標ステートメント)は、脱炭素の「先行指標」となり得る組織の努力・投資活動でGHG排出総量では示せないKPIの開示枠である。ここでは、炭素強度(単位当たりのGHG排出量)、低炭素製品の売上高・割合、低炭素原料・製品の調達額・使用割合、土地利用面積・割合の変化、様々な気候変動緩和プロジェクトへの支出などが考えられるが、有用な指標と「ノイズ」の線引きがフェーズ2の重要議題である。

AMIで何が変わるのか─実務の論点

ウェビナーの後半では、4つのステートメントの登場の意義とそれがもたらす日本企業の実務への影響について、3人で以下の側面を中心に議論した。

 低炭素調達が報われる構造へ(第2ステートメント)

製造業・素材産業にとって、第2ステートメントの意義は大きいと川又氏は強調する。「GXスチールのような低炭素素材がインベントリーに位置づけられることで、需要家はScope 3での削減効果をGHGプロトコル上で安心して報告できるようになり、購買の後押しにつながる。結果として、低炭素素材に乗せられるグリーンプレミアムが次の脱炭素投資に使われる好循環が期待される」とする。

一方実務面では、サプライヤー別排出係数の把握、平均原単位から調達品に見合った原単位への切り替えなど、データ整備の負担が増える可能性がある。川又氏は、「マーケット基準手法を活用しない場合は追加負担は限定的だが、排出削減の『見せ方』で他社と差が生じ得る。コストとベネフィットの見極めが重要だが、データを整備する価値は大きいように見える」と述べた。

 物理と市場ベースの線引き(第1・第2ステートメント)

物理的にトレースできる調達は第1ステートメントに、契約・認証(CoC)による調達は第2ステートメントに載せる、という大枠は理解しやすい一方、グリッドやプールで混在するグリーンスチール・低炭素燃料など、線引きは今後の議論課題である。川又氏は鉄鋼の例を挙げ、「高炉の一部で水素還元による製鉄を行ったが、まだその量が少ないので、特定の鋼材に脱炭素効果を割り当てる場合は市場ベースのインベントリー(第2)。将来的に水素還元製鉄が十分に普及し、物理的に低排出の鋼材が実現し割り当てをする必要がなくなれば物理的インベントリー(第1)で計上できる」と解説する。

高瀬氏はISO 14067(製品カーボンフットプリント)改訂*20)の議論を紹介し(ホワイトペーパーのAnnex Dに概略あり)、第1~3ステートメントに呼応した物理的/契約的/緩和(結果的)の3つのアプローチごとに、適格なCoCモデル(同一性保持、分別、マスバランス、ブック&クレーム等)が整理されつつあると解説した。

 削減貢献量とクレジットの扱い(第3ステートメント)

日本企業が関心を持つ製品による下流の削減効果(例: 高張力鋼板による車体軽量化、高効率エアコン使用時の削減)は、第3ステートメントの「製品使用によるインパクト」のカテゴリーで扱われる見通しである。これにより、製造時の排出が増えたとしても使用時での排出が大きく減らせる製品の効果を、インベントリーと混同せずに示すことができる。川又氏は、WBCSD等の既存の削減貢献量ガイドラインが第3ステートメントにどう織り込まれるか注視すべきだとしている。結果的算定では、ポジティブな効果だけを切り取った報告はステークホルダーの信頼を損うおそれがあることから、負の「リーケージ」も含めて算定する完全性が求められる方向である。

カーボンクレジットが第3ステートメントに位置づけられたことは、クレジット活用の推進と透明性の向上につながるとの評価がある。ただし川又氏は、様々なクレジット制度間の違いを明確に認識しておく必要があると指摘した。温対法やGX-ETS(排出量取引制度)ではJクレジットを排出量の控除に活用することが可能だが、GHGプロトコルではインベントリーでの直接的な相殺には使えない。また、VerraやGold Standardなど国際的なクレジットとJクレジット、二国間クレジット制度(JCM)が第3ステートメントで同等に扱われるのか、今後の議論の焦点である。

 電力の「結果的排出インパクト」(第3ステートメント)

Scope 2 TWGのサブグループでは、低炭素電源の導入が高排出の化石燃料電源の稼働低下や建設の延期を招くことで結果的に排出削減につながる効果を算定・算入する議論を行ってきた。高瀬氏は、東京と九州の需給例を示し、太陽光増加が化石火力の削減につながる地域がある一方で、昼間の太陽光発電量が需要を上回り無駄になっている地域もあることから、同じ1MWhの再エネ調達でも、地域・時間によって系統排出量へのインパクトが異なると説明した*21)

Scope 2 TWGでは、低炭素電源の調達が系統にもたらすCO2排出削減効果の評価に、報告年の調達・取引単位で、「MWh × 限界排出係数*22)」(短期・長期の限界影響をそれぞれ勘案)という計算式を用いることが提案された*15)。この議論はAMI TWGに引き継がれ、第3ステートメントへの組み込みが想定されている。

また、現在の改定議論では、同時同量・供給可能性を満たさないバーチャルPPA(仮想電力購入契約)はScope 2のマーケット基準で扱えなくなることが予想されているが*15)、代わりに第3ステートメントで言及できる可能性がある。いずれにしても、帰属的算定と結果的算定の間で二重計上を避けるのか、ステートメント間の役割の明確化と重複開示のルール作りが今後欠かせない。

他基準への影響

GHGプロトコル改定議論には様々な基準設定団体が参加し、相互運用性を意識した設計がうたわれている。しかし、最終的に4つのステートメントを含むプロトコルのルールを目標設定や開示にどう適用するかは、各プログラムや各国・地域の判断となる。

SBTi(Science-Based Targets Initiative)の技術諮問グループにも参加する高瀬氏は、企業ネットゼロ基準第2版(CNZS 2.0)第2ドラフト*23)において、活動プールレベルのトレーサビリティを認めつつも排出源単位ではプール平均を用いること*24)、証書のインテグリティを保つためカーボンバンク方式*25)を使わないことなどを示しており、第2ステートメントとの整合設計が今後の焦点となると言う。一方で、Scope 3の算定に一次データを用いようとする努力自体を評価する方向が示されており、第3ステートメントにおける「努力の可視化」と並んで、脱炭素に取り組む企業にとって追い風になり得る。

CDPは、長年GHGプロトコルに沿ってデータを収集してきたプログラムであり、マルチステートメントが定着すれば、質問票・スコアリングの改訂も見込まれる。IFRS S2やSSBJ、GRI、CSRD/ESRSにおける気候関連開示は、GHGプロトコルに基づいたGHG排出量の開示を求めており、プロトコルの改定に合わせて算定方法の見直しが進められるだろう。物理的インベントリーが依然これらの基準の主軸であることは変わらないと見られるが、第2~4ステートメントを補足情報として開示し説明に使える余地が広がる。いずれのプログラムも、2027~30年にかけて段階的に改定版GHGプロトコルとの整合を図っていくと見るべきである*29)

意見募集(RFI)の概要と回答のポイント

RFIの目的は、マルチステートメント構造や第2~4ステートメントの基本概念について、多様なステークホルダーの知見を集め、後半(フェーズ2)での基準作成に反映することにある。設問は概念レベルに留まり、追加性や品質要件などフェーズ2で議論する論点はホワイトペーパーのAnnex Aにまとめられている。RFIにコメントすることで、GHGプロトコル事務局やTWGメンバーの日本の電力市場、証書実務、素材産業の文脈などへの理解を高めれば、今後の制度設計に効いてくると考えられる。

RFI提出上の注意点は、以下の通りである(文末に掲載したURLより提出)。

  • 回答は原則すべて公開される。匿名希望は調査冒頭で選択可能だが、本文に個人・組織が特定できる記述を含めない責任は回答者側にある。
  • 商業機密等の非公開希望は、別フォームでの事前承認が必要(当初の申請期限は2026年4月30日とされていた。延長後の扱いは事務局に要確認)。
  • メールやその他の方法での送付は、手続上コメントとして考慮されない可能性がある。

サーベイの前半(Q1~15)は同意事項と回答者属性で、実質的な設問はQ16~35である。

(1)マルチステートメント全体(Q16~19)

  • 新しい報告構造への支持・反対
  • 導入によるメリット・課題
  • 支持を高めるための変更・改善案(4,000字以内の記述欄あり)
  • 以降の詳細設問に進むかどうか(Noを選ぶとサーベイ終了)

(2)目的・ゴール・目標(Q20~21)

  • ホワイトペーパー第4章の目的・目標への同意度
  • 根拠と改善提案(4,000字以内)

(3)第2ステートメント:市場ベースGHGインベントリー(Q22~23)

  • マルチステートメントに組み込むべきかの評価
  • 根拠とフェーズ2向けの追加コメント(GXスチール、グリーンガス証書などの実例をここで示すことができる)

(4)第3ステートメント:GHGインパクトステートメント(Q24~29)

  • マルチステートメントに組み込むべきかの評価
  • サブカテゴリー(組織境界内/バリューチェーン内/セクター関連/グローバル/製品使用インパクト)への同意、サブカテゴリー統合の可否
  • 正の影響と負の影響(リーケージ等)の双方を反映すべきか
  • 販売製品の使用によるGHGインパクト(削減貢献量)の扱い
  • 根拠と追加コメント(4,000字以内)

(5)第4ステートメント:非GHG指標ステートメント(Q30~32)

  • マルチステートメントに組み込むべきかの評価
  • 規定の詳細度
  • 根拠と追加コメント(4,000字以内)

(6)締めくくり(Q33~35)

  • ホワイトペーパー全体に関するその他の意見・懸念・具体的事例(Q33で日本企業の事例を出すことができる)
  • Annex Aにないがフェーズ2で検討すべき論点
  • 将来のパイロットテストへの参加登録

理解を助けるため、ホワイトペーパー説明文書(Exploratory Note)*26)の付録(Appendix)は、欧州の機械メーカーを想定したGHGデータの各ステートメントへの配分イメージを提供している(表2)。日本の事例をQ33や各セクションの自由記述に添えると、事務局やTWGが想定していない事例も加わり、フェーズ2での詳細なルール作りを助けるだろう。川又氏は、「せっかくの努力を適切に報告したい」という動機が強く低炭素調達を進めた企業は、第2・第3ステートメントの設計に関するコメントを通じて国際議論を前に進める役割を果たしやすいと助言する

表2: 4つのステートメントへのGHGデータ計上事例

事例
計上箇所
A社は、オンサイト熱供給用の燃料を石油から天然ガスに変更(使用燃料の炭素強度を低減)した。第1ステートメントのScope 1に計上(現行通り)
A社は、物理的に追跡可能なTier 1サプライヤーから鉄鋼を購入した(このサプライヤーの新規工場で直接還元製鉄で生産された鉄鋼で、トン当たりの排出量が大幅に低い)。購入した鉄鋼の排出係数(トン当たりの排出係数)と活動レベル(購入したトン数)に基づき、第1ステートメントのScope 3, Category 1(購入した物品・サービス)に計上(現行通り)
A社は、ある拠点のオンサイト熱供給用に、バイオメタンを調達。これはガスグリッド経由で供給され、天然ガスと混合されている。供給業者はA社にバイオメタンを100%供給する契約書を提供、残余廃棄物由来のガスに関するLCAと排出係数を提供する。

第2ステートメントのScope 1において、供給業者提供の排出係数を用いて計上

第1ステートメントでは、引き続きグリッドの排出係数を使用
A社は、中国からのコンテナ輸送(輸入物流)について、物流会社と船舶内でバイオメタノールまたはeメタノールを使用するエコデリバリー契約を締結。マスバランス方式によるトレーサビリティを確保し、輸送ルートとは独立して燃料を配分する。

第2ステートメントのScope 3, Category 4(上流の輸送・流通)で、低炭素燃料の使用を勘案

第1ステートメントでは、以前に特定された排出係数を引き続き使用
A社のある拠点では、熱電併給プラントを設置し、自社の施設だけでなく、地域にも電力と熱を供給している。

第1ステートメントで熱電生産からの排出量をScope 1に計上

第3ステートメントの「組織境界内」カテゴリーに、熱電併給による自社エネルギー消費の削減効果を計上

熱電を受けた地域事業者はその分の排出量をScope 2に計上
A社は、インドのサプライヤーによる埋立地からのメタン回収プロジェクトに全額出資しており、サプライヤーはこのメタンを自社発電に利用している。

第3ステートメントの「バリューチェーン内」カテゴリーに、メタン回収による排出削減分を計上

さらに、投資額を第4ステートメントで報告できる
A社は、顧客イベント開催に伴う排出量を相殺するため、エチオピアでの調理用コンロ導入プロジェクトによる国際認証カーボンクレジットを購入した。第3ステートメントの「グローバル」カテゴリーに、排出相殺分を計上
A 社は、顧客が製造工程における排出量を大幅に削減できる技術を開発、提供している第3ステートメントの「製品使用のインパクト」カテゴリーに、顧客の排出削減分を計上
A社は、顧客に販売している製品ポートフォリオのうち、低炭素鋼のみを使用している製品の割合を年ごとに把握している。毎年の割合を第4ステートメントで記載できる

AMIホワイトペーパー説明文書*26)を基にゼロボード作成

AMI議論は今後どう進むか─フェーズ2

フェーズ1は「何を、なぜ、どの枠で報告するか」の骨格づくり、フェーズ2は「どう数値化し、何を必須・任意とし、どう検証するか」の実務ルールづくりである。2026年後半にRFIでのフィードバックを公開。追加性、品質基準、トレーサビリティが具体化されたうえで、TWGによるドラフト執筆が行われ、2027年前半に独立基準審議会(ISB)承認を経て、第3四半期に正式なパブリックコンサルテーション。2028年初頭の最終調整、運営委員会承認、という段階が想定されている*9)

ホワイトペーパーのAnnex Aにも示されているフェーズ2の中心議題は、次の通りである。

  • 各ステートメントの適格性基準、品質基準、セーフガード(クレジット、証書、契約、削減主張のインテグリティ)
  • 第2・第3ステートメントを必須とするか任意とするか、ステートメント間の重複可否
  • 第1・第2ステートメントにおける市場手段の物理的コネクティビティとトレーサビリティの水準(CoCモデル別の可否・残余の扱い)
  • 第2ステートメントにおける残余排出係数の使用
  • 第3ステートメントのサブカテゴリー間の境界、製品使用インパクトの算定手順、正負のインパクトの扱い
  • 第4ステートメントの共通指標セットと開示の任意・必須
  • 定義・算出方法の詳細化、実務上の実現可能性の検証
  • 目標設定プログラム向けガイダンス(SBTi、CDP等が各ステートメントをどう参照し得るか)

鉄鋼・化学・電力・航空燃料などセクター別の詳細に関して補完的なガイダンスが提供できるかも、フェーズ2での論点になる。

「4つのステートメント」は、GHG報告の文法を増やす

AMIの議論は、これまでの組織単位のGHG排出量という単一の指標を超え、物理的な現実(第1)、調達と市場の選択(第2)、介入の結果(第3)、それ以外の進捗指標(第4)という4つのステートメントを提供することで、様々な脱炭素への努力の役割を分けて語る文法を、国際的に揃えようとする試みと言える。

日本企業にとっては、鉄鋼・化学・電力・製造業など、すでに証書や契約で脱炭素戦略を進めている企業ほど、第2・第3ステートメントの設計が事業戦略に直結するだろう。6月15日までのRFIは、その設計に日本の実務知見を届ける貴重な機会である。

川又氏は最後に、フェーズ2で具体化される追加性・品質基準・トレーサビリティを見据え、日本企業がルール確定を待たずに調達とデータ・証跡の整備を進めることは、この長いプロセス全体に向けた現実的な準備となると締めくくった。



AMI意見募集(RFI)の提出ページ
https://forms.cloud.microsoft/Pages/ResponsePage.aspx?id=H6xrR7I22UqGmc2mutH4YhlrKRh6eVZNoi6gmSnLL8BURE1JVEFFNUQ1NUJPNkozN0ozS0JYRFFaVS4u



*1) Greenhouse Gas Protocol, Actions and Market Instruments: Phase 1 Progress Update White Paper, Version 3 – Request for Information, March 2026.
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-03/AMI-Phase1-WhitePaper-RFI.pdf

*2)World Business Council for Sustainable Development (WBCSD) and World Resources Institute (WRI), The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard, Revised Edition, March 2004.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard

*3) WRI and WBCSD, Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard: Supplement to the GHG Protocol Corporate Accounting and Reporting Standard, September 2011.
https://ghgprotocol.org/corporate-value-chain-scope-3-standard

*4) WRI, GHG Protocol Scope 2 Guidance: An Amendment to the GHG Protocol Corporate Standard, 2015.
https://ghgprotocol.org/scope-2-guidance

*5) Greenhouse Gas Protocol, GHG Protocol Corporate Suite of Standards and Guidance Update Process.
https://ghgprotocol.org/ghg-protocol-corporate-suite-standards-and-guidance-update-process

*6) GHGプロトコル改定のTWG議論の進捗は、Standards Development and Governance Repositoryで公開されている。
https://ghgprotocol.org/standards-development-and-governance-repository

*7) Greenhouse Gas Protocol, Standard Development Plans.
https://ghgprotocol.org/standard-development-plans

*8) ジェトロ「ISOとGHGプロトコル、GHG排出量基準統一のための戦略的提携を発表」、ビジネス短信、2025年9月12日
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/09/1434cffe24688d4b.html

*9) 待場智雄、遠藤真尋「GHGプロトコル改定中間報告:Scope3・再エネ調達・削減貢献量はどう変わるのか」、ゼロボードインサイト、2025年11月4日
https://www.zeroboard.jp/column/5752

*10) Greenhouse Gas Protocol, Explanatory Memo: Request for Information – Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update White Paper, March 2026.
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-03/AMI-Phase1-WhitePaper-RFI-ExplanatoryMemo.pdf

*11) Greenhouse Gas Protocol, GHG Accounting and Reporting on the Impacts of Actions and Market Instruments – Standard Development Plan, 20 December 2024.
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2025-01/AMI-SDP-20241220.pdf

*12) International Organization for Standardization (ISO), ISO 22095:2020 Chain of custody – General terminology and models, Edition 1, 2020.
https://www.iso.org/standard/72532.html

*13) WBCSD, Guidance on Avoided Emissions v2.0: Drive innovations and scale solutions toward net zero, 24 July 2025.
https://www.wbcsd.org/resources/guidance-on-avoided-emissions-helping-business-drive-innovations-and-scale-solutions-toward-net-zero

*14) International Electrotechnical Commission (IEC), IEC 63372: Quantification of GHG emissions avoided through use of electrical and electronic products and systems – Principles, methodologies, requirements and guidance, Edition 1, January 2026.
https://cdn.standards.iteh.ai/samples/iec/iec-63372-2026/165991431b6e426189749a1aefe990f4/iec-63372-2026.pdf

*15) 待場智雄「GHGプロトコルScope2改定案、 パブコメ参加ガイド」、ゼロボードインサイト、2026年1月9日
https://www.zeroboard.jp/column/5764

*16) WRI and WBCSD, Greenhouse Gas Protocol Land Sector and Removals Standard Version 1.0: Agriculture and CO2 removal technologies, Supplement to the GHG Protocol Corporate Standard and Scope 3 Standard, 30 January 2026.
https://ghgprotocol.org/land-sector-and-removals-standard

*17) 日本鉄鋼連盟「GXスチールガイドライン・関連ガイドライン」
https://www.jisf.or.jp/business/ondanka/kouken/greensteel

*18) クリーンガス証書評価委員会「グリーンガス証書」
https://www.clean-gas-certificate.com

*19) JAL法人ソリューション・サービスサイト「SAFによるCO2削減証書『JAL Corporate SAF Program』」 https://solution.jal.co.jp/solution-list/detail/saf-program

*20) ISO, ISO/WD 14067.2 Greenhouse Gases: Carbon footprint of products – Requirements and guidelines for quantification (under development).
https://www.iso.org/standard/90578.html

*21) 自然エネルギー財団「電力需給チャート」(随時更新)
https://www.renewable-ei.org/statistics/electricity/#demand

*22) 限界排出係数とは、電力消費量が1単位増加した際に追加で排出(あるいは排出削減)されるCO2量を指す。電気使用によるCO2排出量算定には一般的に電気の使用量に全電源の平均排出係数を乗じて計算するが、CO2削減対策効果の算定には対策により稼働率低下、新規建設延期・中止などの影響を受ける電源(限界電源: 日本の場合は火力発電)の排出係数(=限界排出係数)を用いて計算する必要がある。(参照: 日本ガス協会「CO2削減対策の効果と電気のCO2排出係数について」www.gas.or.jp/kankyo/taisaku/denki

*23) Science Based Targets Initiative (SBTi) SBTi Corporate Net-Zero Standard, Version 2.0, Draft for Second Public Consultation, November 2025.
https://sciencebasedtargets.org/consultations/cnzs-v2-second-consultation

*24) 待場智雄、ヨセファリサ・ミシェル「SBTiネットゼロ基準の改定-第2ドラフト公開、排出削減へ多様な道筋を容認」、ゼロボードインサイト、2025年12月1日
 https://www.zeroboard.jp/column/5755

*25) カーボンバンク方式とは、低炭素な製品・素材を実際に作った時の「削減価値」を、物理的な製品そのものとは切り離して“銀行”のように管理し、別の製品や顧客に割り当てるアロケーション方法を指す。

*26) Greenhouse Gas Protocol, Actions and Market Instruments: Phase 1 Progress Update White Paper, Version 3 – Request for Information, Explanatory Memo, March 2026.
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-03/AMI-Phase1-WhitePaper-RFI-ExplanatoryMemo.pdf


  • 記事を書いた人
    待場 智雄(ゼロボード総研 所長)

    朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりGRIの審議機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事、2025年3月よりGHGプロトコルTWGメンバー、2026年4月よりGSSB副議長を務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。