GHGプロトコルScope2改定案、 パブコメ参加ガイド (1月31日まで)
グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー
ゼロボード総研所長 待場 智雄
気候変動を引き起こしている温室効果ガス(GHG)の排出量算定に関する国際的民間ルール「GHGプロトコル」が約20年ぶりの大幅な改定を進めているが、このうちScope2(他者から供給された電気、熱、蒸気の使用による間接排出)の算定に関する改定案と電力セクターにおける結果的排出影響の考え方に関する資料が2025年10月、公表された。
※GHGプロトコル改定の全体像(背景・改定の狙い・他領域への波及)については、「GHGプロトコル改定中間報告」の記事で整理している。
同案を解釈すると、多くの企業が脱炭素の実現に依拠している非化石証書などが現行の形では使えなくなり、証書ルールや再エネ調達の方法を大きく変える必要性があるなど、日本の電力業界や企業にとって影響が大きい内容となっている。
GHGプロトコルによる算定方法は、IFRS S、SSBJ、GRI、欧州CSRD/ESRSなどサステナビリティに関する開示基準や、SBTiによる排出削減目標設定、CDPなどのベンチマークにも幅広く適用されるため、各企業にとって今回の改定は将来の事業・投資計画などにも影響しかねない。同プロトコル事務局ではパブリックコンサルテーションを延期し、2026年1月31日まで意見を募っている。本稿では、各企業およびステークホルダーのパブコメ参加の一助となるべく、GHGプロトコル事務局の資料※1を基に改定案ならびに結果的排出影響の要点と質問票を通じて意見が求められている点、そして回答のコツをまとめた。
Scope2改定の背景―インベントリー算定への純化
GHGプロトコル事務局によると、今回改定を進めている同プロトコルのコーポレート基準、Scope2ガイダンスおよび企業のバリューチェーン(Scope3)基準は元来、各組織およびそのバリューチェーンに帰属するGHG排出量の棚卸しをするもので(インベントリー算定)、これに対し、特定の排出削減行動をそれがない場合のベースラインと比較してシステム全体への影響を推定する結果的算定(Consequential accounting)とは明確に区分されるものである。インベントリー算定、結果的算定の双方に価値があるが、それぞれの観点や算定する対象が異なるため、報告においては明確に区別されるべきであるとする(図1)。
図1: インベントリー算定と結果的算定の違い
出典: GHG Protocol, Land Sector and Removals Guidance: Part 1 (draft) ※2 Figure 13.1, page 243を
ゼロボードが和訳、デザイン・表記を一部修正
IFRS SやCSRD/ESRSなどGHGプロトコルに基づく排出量の開示義務への動きが進み、今後投資家をはじめとするステークホルダーにとって意思決定に資する正確で比較可能なデータの提供がカギとなる。このためScope2の改定は、物理的に自社の活動にひもづく排出の実績(インベントリー)に純化することで正確性と比較可能性を向上させ、Scope1、Scope3との整合性を保つことを目指している。
また、2025年上半期に再エネによる発電量が初めて石炭火力を上回り※3、太陽光や陸上風力など既存技術による発電コストが大幅に下がるなど再エネ市場が成熟する中で、自社の消費実態とかい離した再エネ100%の主張はグリーンウォッシュとみなされるリスクが高まっている。今後各社の再エネ調達を電力システムの物理的な実態と整合させ、化石燃料を要しない実質的な脱炭素化いわゆる「24/7カーボンフリー電力」を加速させることも意図している。既存の電源の付け替えによる再エネ利用の主張を抑え、追加性のある新たな再エネ電源、中でもまだ価格が高いが時間変動が少ない地熱や洋上風力などの安定電源や蓄電施設への投資、およびデマンドレスポンス(需要パターンの調整)の普及を促す狙いがある。
質問票回答の留意点
GHGプロトコル事務局では、オンラインの質問票※4で2026年1月31日までコメントを受け付けている。メールなど他の手段での意見は考慮されない。透明性の観点から、提出された回答は原則として氏名、組織名、地域等を含みすべて公開される。商業機密等で非公開を希望する場合は事前の申請と承認が必要となる。
同プロトコルの改定は「科学的整合性」「インパクト」「実施可能性」の順で検討および意思決定を行っており、パブコメも単に多数決ではなく、この優先順位に合致しているかどうかで判断される。1組織につき1回の提出とし、また投票ではないため業界で同じ意見を多数提出することは有効ではなさそうだ
意見を記述する際には、単に「コストがかかる」「手間が増える」という一方的な苦情を避け、優先順位を考慮し日本国内の事情を超えた普遍的な論理構成が有効である。多くの企業で現行の「再エネ100%戦略」が崩れる可能性が大きいが、改定基準の適用はまだ数年先のことであり、各国ともその間に対応する制度やシステムの整備が進むであろう。現状でなく将来の状況をベースに考え、脱炭素推進の観点から上記の優先順位に照らして建設的な代案や意見を提示することが大切だ。実施可能性を確保するための具体的な代替案や移行期間、免除措置などの提示も効果的であろう。
質問票はScope2だけで183問にも上るが(質問項目はパブコメ資料に記載されている)、全問に答える必要はなく、以下を参考に自社に関連する部分や重要と考える部分のみの回答も可能である。
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以下はダウンロードしてご覧いただけるコラムの要約となります。
改定の要点とパブコメのポイント
1. Scope2および算定基準の定義と目的(要約)
Scope2のロケーション基準とマーケット基準の「二重会計」は維持される一方で、両者の定義と目的をより明確化し、Scope2を電力システムの物理的実態(いつ、どこで発電されたか)と整合させる方向が提案されている。Scope2の定義は帰属的(attributional)性格が強調され、回避排出などの効果は除外される。ロケーション基準は「時間」と「場所」を反映し、消費ベース計算が推奨される。マーケット基準も証書と物理的消費の整合(時間的相関・供給可能性)要件が明記される。
詳細はDLへ:
改定の要点(定義の変更点)/意見が求められている点(Q18~22の論点)を、DL資料で整理しています。
2. ロケーション基準の改定(要約)
ロケーション基準は、データの精緻化と選択ルールの厳格化が提案されている。地理的境界はより狭い範囲(ローカルバウンダリー)を優先し、時間粒度は年次より月次、月次より時間単位を優先する。排出係数は生産ベースよりも消費ベースが推奨される。データの「アクセス可能性」は公的に利用可能・無料・信頼できる情報源からのデータとされ、時間単位データがない場合は負荷プロファイルで按分・推計が認められる。
詳細はDLへ:
排出係数階層(Q23~34)/アクセス可能性(Q35~39)/shall義務化(Q44~47)/投資家・保証視点(Q52~56)/データ保有状況(Q57~60)/コスト・負担軽減策(Q62~66)など、設問別の論点をDL資料で解説しています。
3. マーケット基準の改定(要約)
マーケット基準は再エネ証書(EAC)や電力購入契約(PPA)などの契約を勘案した算定手法。消費実態とのかい離を防ぐため、以下の4つの厳格化が提案されている。
3-1. 時間単位の整合性(アワリーマッチング)
契約の整合性証明を年単位から1時間単位へ移行する提案。電力が消費された同じ時間帯に発電・償還された証書であることが要件となり、時間データがない場合は負荷/発電プロファイルでの推計が認められる。
詳細はDLへ:
アワリーマッチングへの賛否(Q71~76)/コストと労力(Q77~82)を、DL資料で整理しています。
3-2. 供給可能性と市場バウンダリー
証書調達を「物理的に送電可能な同一市場」に限定する方向。市場バウンダリーは入札ゾーン等が境界となり得る。域外調達は価格差(一定以内)または物理的送電権の確保で供給可能性を実証する必要がある。
詳細はDLへ:
供給可能性の実証(Q83~86)/市場バウンダリー定義(Q88~91)を、DL資料で整理しています。
3-3. 標準供給サービス(SSS)
公共的な電源(補助金・賦課金で支えられる再エネ、大型水力、原子力等)やデフォルト供給電源を「標準供給サービス(SSS)」と定義し、特定企業が独占的に環境価値を主張することを制限する。SSSに含まれる低炭素電源は、グリッド平均比率までの主張に限定される方向が示されている。
詳細はDLへ:
SSS概念への賛否(Q97~101)/定義と範囲(Q102~105)/デフォルト指定(Q107~109)を、DL資料で整理しています。
3-4. 残余ミックスと化石燃料ベース係数
証書等でカバーされない電力消費に適用する排出係数ルールを厳格化する提案。残余ミックスはSSSや他者の証書購入分を差し引いた構成を反映し、残余ミックスが信頼できない場合は化石燃料ベース係数(または化石燃料のみのグリッド平均)をデフォルトで使用する方向が示されている。
詳細はDLへ:
残余ミックス定義(Q113~117)/データの準備状況(Q118~123)/化石燃料係数の強制(Q124~129)を、DL資料で整理しています。
加えて、4点厳格化の総合評価(Q130〜151)もDLで解説しています。
4. 緩和・移行措置(要約)
上記の改定案導入で急激な変化による市場の混乱を避けるため、下記の緩和および移行措置が提案されており、意見を求めている。
4-1. 免除規定
電力消費量が少ない組織・拠点について、アワリーマッチング要件を免除し、月次・年次マッチングを許容する案。閾値は5~50GWhのレンジで検討されており、中小企業基準に基づく免除も検討されている。
詳細はDLへ:
免除閾値(Q70)/免除への賛否・閾値(Q153~165)/免除期限(Q166~167)をDL資料で整理しています。
4-2. レガシー条項
改定前に締結された長期契約(PPA等)を一定期間または契約期間中、従来ルールで報告可能とする案。対象となる契約時点や適用期間などが論点となる。
詳細はDLへ:
導入の賛否(Q171~175)/適格性と期間(Q176~178)/代替案(Q181~183)をDL資料で整理しています。
4-3. 段階的導入
最終基準公表(2027年後半予定)後、数年間の移行期間を設ける想定。いつの報告年度から適用可能かが問われている。
詳細はDLへ:
導入可能時期(Q67~68)の考え方をDL資料で整理しています。
5. 電力セクターにおける結果的算定(要約)
今回のパブリックコンサルテーションには、結果的算定(Consequential accounting)手法を用いて、電力セクターにおける排出削減行動による回避排出(Avoided emissions)を推計することに関する提案と質問が含まれる。下記にその背景と提案内容、質問でフィードバックを求めているポイントを解説する。
5-1. 結果的算定議論の背景
インベントリー算定とは別に、特定の介入がシステム全体へ与える影響(回避排出)への関心が高まっている。電力セクターでは限界電源の排出係数が重要になり、日本では火力が限界電源となる前提で削減効果を評価する考え方が示されている。
詳細はDLへ:
背景の整理(図表含む)と、AMI作業部会との関係をDL資料で解説しています。
5-2. 提案内容
提案は①計算式(調達電力量×MER)②追加性③MER(OM/BM)④OM/BMの重み付け、の4要素から構成される。年次報告の推奨や、二次的効果を含めない方針などが示されている。
詳細はDLへ:
4要素の具体、採用し得る手法・データベース、実装上の論点をDL資料で整理しています。
5-3. 意見が求められている点
結果的算定を電力セクターで用いる利点・課題、計算式、追加性テスト、MERの手法・粒度、OM/BM重み付けなどについて具体的なフィードバックが求められている。
詳細はDLへ:
Q18~52の設問意図と、コメント作成の観点をDL資料で整理しています。
今回のScope2改定案は日本の電力市場や再エネ制度に対して大きなインパクトを与えると予想される。また、海外で操業する企業にとっては、各国での電力調達での扱いも気になるところであろう。パブリックコンサルテーションは、将来の国際的な脱炭素ルールの形成に直接関与できる重要な機会でもあり、英語というハードルはあるものの選択肢から選ぶだけの質問も多いので、ぜひDL資料を参考にしながら回答いただければ幸いである。
「GHGプロトコルScope2改定案、パブコメ参加ガイド」
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1) GHG Protocol, Public Consultation – Scope 2 and Public Consultation – Consequential Electricity-Sector Emissions Impacts. https://ghgprotocol.org/ghg-protocol-public-consultations
2) GHG Protocol, Land Sector and Removals Guidance, Part 1: Accounting and Reporting Requirements and Guidance, Draft for pilot testing and review, September 2022. https://ghgprotocol.org/land-sector-and-removals-standard
3) BBC, “Renewables overtake coal as world's biggest source of electricity”, 7 October 2025. www.bbc.com/news/articles/cx2rz08en2po
4) GHG Protocol, GHG Protocol Public Consultations. https://ghgprotocol.org/ghg-protocol-public-consultations