Scope3カテゴリ4の次のステップ!物流効率化法・省エネ法に同時対応するデータ戦略
迫りくる「3つの法規制」、あなたの会社はバラバラに対応していませんか?
サステナビリティ経営が企業価値を左右する現代、多くの企業が「SSBJ開示基準」「改正物流効率化法」「改正省エネ法」という、物流・環境領域における3つの重要な法規制への対応に迫られています。しかし、現場ではサステナビリティ部門がSSBJ対応のGHG排出量算定に、物流部門が物流効率化法や省エネ法に基づく輸送効率の改善に、といった形で、それぞれの対応が分断されてはいないでしょうか。
このような縦割り対応は、二重のデータ収集や報告業務を生むだけでなく、部門間で矛盾した施策を打ち出してしまうリスクすら孕んでいます。実は、これら3つの規制対応には、組織の壁を越えて連携を促す「共通の鍵」が存在します。それが、サプライチェーンにおける輸送・配送の排出量を示す「Scope3 カテゴリ4」です。
本記事では、このScope3 カテゴリ4を軸に、部門間のサイロを破壊し、3つの法規制対応を一つのデータ戦略に統合する方法を解説します。これは単なる規制対応の話ではありません。コンプライアンスという守りの活動を、コスト削減と企業価値向上に繋げる「攻めの経営戦略」へと転換するためのロードマップです。
Scope3カテゴリ4に関係する3つの重要法規制― SSBJ開示基準・物流効率化法・省エネ法の全体像
まず、各法規制が企業に何を求めているのか、その全体像を具体的に把握しましょう。これらは独立しているように見えて、実は物流データを中心に密接に関連しています。
法規制 | 主な要求事項 | 物流領域でのポイント |
SSBJ開示基準 | GHG排出量(Scope1〜3)の開示、有価証券報告書への記載、第三者保証の必要性(任意) | Scope3カテゴリ4(輸送・配送)の精緻な算定とデータ信頼性の確保 |
改正物流効率化法 | 物流統括管理者(CLO)の選任義務化、中長期計画の策定・報告 | 荷主として物流の非効率性を是正し、生産性向上と環境負荷低減を両立させる具体的な施策の実行 |
改正省エネ法 | エネルギー使用量に関する中長期計画の策定、GHG排出量1%削減の努力義務 | 荷主として輸送におけるエネルギー効率の改善(モーダルシフト等)と定期的な報告 |
これらの法規制対応を前に、多くの企業は「サステナビリティの取り組みステップ」において最初の段階で足踏みしています。
サステナ1.0:規制開示対応
まさに上記のような法規制に対し、必要最低限の対応を行うコンプライアンスの段階です。多くの企業がここに留まっています。
サステナ2.0:改善・削減
算定・可視化したデータを基に、関連部門や取引先を巻き込み、具体的なGHG排出量の削減活動やオペレーション改善に取り組む段階です。
サステナ3.0:サステナ経営の実行
サステナビリティへの取り組みを製品・サービスの競争力強化に繋げ、企業価値を向上させる経営戦略として実行する段階です。
多くの企業が「サステナ1.0」の壁を越えられずにいる根本原因は、組織構造の問題にあります。次章でその実態を掘り下げていきましょう。
Scope3カテゴリ4対応が進まない理由― サステナビリティ部門と物流部門のサイロ化
多くの企業で法規制対応が非効率になる根本原因は、サステナビリティ部門と物流部門の「サイロ化(分断)」にあります。両部門は、同じ物流活動を見ているにもかかわらず、その目的と視点が全く異なっているのです。
サステナビリティ部門は、SSBJ開示基準に対応するため、全社のGHG排出量を網羅的に把握することに注力します。彼らの主な関心事は「開示要件を満たす正確な数値を算出すること」です。
一方、物流部門は、改正物流効率化法や改正省エネ法に対応するため、輸送コストの削減や積載率の向上、ドライバーの労働環境改善といった「オペレーションの効率化」を最優先課題としています。
問題の本質は、両部門が二次データ(推計値)であれ一次データ(実測値)であれ、結局は同じ物流データ基盤を使っているという点にあります。異なるKPIを追いかけるあまり、同じデータソースに対してそれぞれが独自に分析を行い、別々の施策を打ち出してしまうのです。この分断は、二重のデータ収集労力を生むだけでなく、サステナビリティ部門がCO2削減のために「輸送モードの変更」を求めても、物流部門が「コスト増」を理由に反対するなど、施策が矛盾・停滞する深刻な原因となります。
Scope3カテゴリ4の次のステップは「一次データ」にある― 推計値算定から物流実態ベースへの転換
この部門間の分断を乗り越え、「サステナ2.0:改善・削減」へと移行する鍵こそが、物流の「一次データ」に基づいたアプローチの一本化です。
Scope3 カテゴリ4 は全部門をつなぐ「共通言語」
Scope3 カテゴリ4(輸送・配送)は、これら3つの法規制すべてに共通する核心的な要素です。
SSBJ対応では、Scope3の排出量を精緻に算定する必要があります。
物流効率化では、非効率な輸送ルートや低い積載率を特定し、改善策を講じます。
省エネ対応では、輸送におけるエネルギー使用量を把握し、削減努力が求められます。
これらはすべて、結局のとこ「どの荷物を、どの車両(モード)で、どれだけの距離を運んだか」という物理的な輸送データに基づいています。このデータこそが、異なる目的を持つ部門間をつなぎ、共通の戦略を立てるための「共通言語」となり得るのです。
推計から実態へ:二次データから一次データへの転換がもたらす価値
これまで、Scope3の算定では輸送委託費などの「二次データ」に基づく推計が主流でした。しかし、規制強化と経営効率化の両立を目指すには、輸送実績に基づく「一次データ」への転換が不可欠です。
比較項目 | 二次データ(従来) | 一次データ(これから) |
データソース | 輸送委託金額、業界平均値など | 運行記録、燃料使用量、WMS/TMSからの実データ |
算定精度 | 低い(推計値・理論値) | 高い(実態ベース) |
活用の限界 | 開示要件を最低限満たすのみ。削減努力が反映されにくい。 | 削減施策の効果測定、非効率な箇所の特定、具体的な改善活動に直結する。 |
戦略的価値 | コンプライアンス対応(サステナ1.0) | 経営効率化、コスト削減、企業価値向上(サステナ2.0/3.0) |
もちろん、一次データの収集には多くの実務的な困難が伴います。委託先事業者からのデータ取得は容易ではなく、データ形式の不統一や欠損など、様々な”煩雑さ”が存在するのも事実です。しかし、一次データへの投資は、単なる報告義務を果たすためのコストではありません。物流の非効率性を是正し、コストを削減するという財務的リターンと、法規制に実効性を持って対応するという戦略的リターンの両方をもたらす、最も正当化しやすい経営資源の配分なのです。
Scope3カテゴリ4を軸に進む部門連携が生み出す3つの効果― 物流コストとCO2削減を同時に実現する視点
サステナビリティ部門と物流部門が一次データを共有し連携することで、「サステナ2.0」を体現するWin-Winの施策が生まれます。
1. 共同配送の推進 サプライヤー間での共同配送を推進し、積載率を大幅に向上させる施策です。これにより、トラック台数を削減し、物流コストとCO2排出量の両方を同時に削減できます。
2. モーダルシフトの実行 長距離輸送をトラックから、排出係数の低い鉄道や船舶に切り替える施策です。これにより、燃料費の高騰リスクを回避しつつ、Scope3カテゴリ4の排出量を大幅に削減することが可能になります。
3. 発注・発送プロセスの最適化 需要予測に基づいて発注ロットを適切な輸送単位まで大きくし、輸送頻度を最適化する施策です。不要な緊急輸送をなくし、配送コストと排出量の双方を削減します。これは単なる物流の効率化に留まらず、サプライチェーン全体の最適化へと繋がる重要な入り口となります。
Scope3カテゴリ4対応を進めるための実務ステップ
― データ統合と部門連携を実現する2つのフェーズ
いきなり全体最適化を目指すのは困難です。まずは現状を正確に把握することから始め、段階的に改善サイクルを回していくことが成功の鍵となります。
フェーズ1:現状把握とデータ基盤の構築
最初のステップは、議論の土台となる信頼性の高いデータ基盤を構築することです。
見える化の徹底: 輸配送ルート、積載率、トラックの待機・荷役時間、CO2排出量など、現状の物流データを収集・分析し、ボトルネックや非効率な箇所を特定します。まずは自社の物流活動の「健康診断」を行うイメージです。
データの補完と標準化: 部門や委託先の輸送事業者ごとにバラバラなデータの粒度や定義(例:重量はkgかトンか)を統一します。多くの場合、データが不足していたり、加工が必要だったりするため、それらを補いながら、全社で比較・分析可能なデータ基盤を整備します。
ここで極めて重要なのが、輸送事業者との連携です。最初から完璧にフォーマット化されたデータを要求すると、相手に過大な負荷をかけてしまい協力が得られません。経験豊富なコンサルタントとしてのアドバイスは、「まずは出せるデータを、出せる形で出してもらうことから始める」ことです。この現実的な一歩が、信頼関係を築き、持続可能なデータ収集体制を構築する上で不可欠です。
フェーズ2:全体最適化の企画・実行と効果測定
フェーズ1で構築したデータ基盤を基に、具体的な改善アクションへと繋げます。
効率化企画の立案: 標準化されたデータに基づき、モーダルシフトや共同配送といった、一部門の視点では生まれなかった全体最適化に繋がる施策を企画します。
実行と効果測定: 企画を実行し、その効果を一次データに基づいて定量的に測定します(CO2排出量、輸送コストなど)。この結果を次の改善に活かすことで、継続的なPDCAサイクルを回し、「サステナ2.0」の取り組みを本格化させます。
まとめ:Scope3カテゴリ4は法規制対応を企業価値向上へ変える起点― コンプライアンスからサステナ経営への転換点
SSBJ、物流効率化法、省エネ法への対応は、決して単なるコストや義務ではありません。
これらは、部門間の壁を越え、データに基づいた経営改革を進めるための重要な契機でもあります。
多くの企業が「サステナ1.0」の規制対応に留まる一方で、真の価値は、その先の「サステナ2.0」における改善・削減、さらに「サステナ3.0」としてのサステナビリティ経営の実行にあります。法規対応を目的とした算定に終始するのではなく、データを企業価値の向上につなげていく視点が、これからの時代には求められています。
Scope3カテゴリ4への対応において重要なのは、算定手法そのものよりも、物流効率化法・省エネ法・SSBJといった複数の制度要件を、どのデータを起点に、どの部門が連携して進めるかという全体設計です。
すでにScope3算定や物流データの収集に取り組んでいるものの、「制度ごとに対応が分かれている」「一次データの活用や部門連携をどう進めるべきか悩んでいる」といった課題をお持ちの場合は、自社の状況に即した整理を行うことで、次の一手が見えやすくなります。
Scope3カテゴリ4の算定・法規対応・データ整備や体制づくりについて、現状や課題を踏まえた情報交換をご希望の際は、お気軽にお問い合わせください。


