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SBTiネットゼロ基準の改定-第2ドラフト公開、排出削減へ多様な道筋を容認(パブコメは12月13日まで)

目次

グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー

ゼロボード総研所長 待場 智雄

ヨセファリサ・ミシェル

前回のインサイトでは、GHGプロトコルの改定状況を解説し、Scope 2(他者から供給された電気、熱、蒸気)の算定・開示方法に関するパブリック・コンサルテーションが12月19日まで行われている旨、お伝えした。続いて、同プロトコルに基づいて各企業の短長期の温室効果ガス(GHG)削減目標設定と進捗管理をサポートするScience Based Targets Initiative(SBTi)が、「企業ネットゼロ基準」第2版の第2ドラフトを11月6日に公表し、12月13日までパブリック・コンサルテーションを行っている。今回は日本からのパブコメ提出の一助としていただきたく、同ドラフトの要点を解説する。

全般に、現基準の実効性に対する企業からのフィードバックを取り入れ、カーボンクレジットによる排出量のオフセットは依然認めないものの、多排出セクター、複雑なサプライチェーンを抱える企業、成長を伴う新興企業にとっても実行可能なように、ネットゼロへ向けた多様な道筋や指標を許容する内容になっている。

SBTiとは?

SBTiは2015年、WWF、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトにより設立された共同イニシアティブ*1)。世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定目標の達成に向け、企業がGHG排出量をどれだけいつまでに削減しなければいけないか、「科学的知見と整合した目標」(Science-based target)を設定することを支援する。SBTi基準に適合していると認められる企業にSBT認定が与えられ、これまでに世界中で12,000社近く、日本企業では2015年10月のソニーを皮切りに2,000余社が認定を取得している*2)

現行のネットゼロ基準

2050年ネットゼロへ向けた長期的な脱炭素移行を奨励すべく、2021年10月にはSBTi企業ネットゼロ基準の第1版が公表され、その後も少しずつアップデートが加えられ第1.3版が最新のものとなっている。同基準では、企業のネットゼロを次のように定義している。

  • Scope 1, 2, 3 の排出量をゼロにするか、もしくは適格な 1.5℃軌道においてグローバルまたはセクターレベルでのネットゼロ排出達成と整合する残余排出量水準にまで削減。
  • ネットゼロ目標の時点における残余排出量およびそれ以降に大気中に放出されるすべての GHG 排出量を中和すること。

これを具体的な目標に落とすために、下記の4つの要素を定めている*3)

①短期目標

2015年以降でデータが存在する最新年を基準年に推奨し、申請時から5~10年以内の削減目標を立てる。Scope 1, 2の目標設定は必須、Scope 3排出量が全体排出量の40%以上となる場合はScope 3の目標設定も必須となる。Scope 1, 2は合計で1.5℃以内の気温上昇に抑えるよう年4.2%以上の削減、Scope 3は2℃以内に抑える年2.5%の削減を目安に目標を設定する(中小企業*4)にはScope 3は算定のみが求められ、目標は任意)。Scope 1,2の目標は合計排出量の95%以上、Scope 3の目標は67%以上の算入が求められる。

②長期目標

1.5℃水準と整合するために、2050年までにScope 1, 2, 3全体の90%を削減することが求められる。別途セクター別文書が用意されている場合は、その排出削減経路に従う。短期・長期目標の基準年は一致させる。Scope 3の目標は90%以上の算入が求められる。

③中和

長期目標においてScope 1, 2, 3排出量を90%以上削減したとしても、一部の残余排出量を大気中から炭素を除去し、永続的に貯蔵する方法で相殺する必要がある。中和の方法として炭素除去のカーボンクレジット活用が認められるが、上記短・長期目標実現のための排出削減へのクレジットの算入はできない。

④バリューチェーンを超えた緩和(BVCM)

企業のバリューチェーン外に対し、再エネ投資や省エネ製品などを通じた排出回避や削減につながる活動や、大気中からGHGを除去し貯留する活動や新技術への投資(REDD+クレジットの購入、CCS、DAC技術への投資)を行うことで、地球社会が 1.5°C の炭素予算内にとどまる可能性を高めるのに役立つことが推奨される。ただし、これは企業自身のバリューチェーンからの排出量の削減義務に代わるものではない。

この基準に基づいてネットゼロ認定を受けた企業は世界でこれまでに2,200社余りに上り、日本からも92社が認定されている(2025年11月現在)*5)

改定版基準の主要要素

SBTi事務局は過去3年余りにわたる企業ネットゼロ基準第1版の適用経験を踏まえ、「気候科学を活用しやすく実行可能にし、さらに多くの企業が科学的知見に基づいた野心的な目標を立て、計測可能な進展を果たせるようにする」ため、大幅な改定を実施しているとする。企業ネットゼロ基準第2版の第1ドラフトは2025年3月に公開され、約860のコメントが提出されたほか、パイロットテストも行われた。これを踏まえて第2ドラフトが作成され、最終化に向けて意見を募っている。事務局は、「脱炭素化実施における多様なセクターや地域の現実を踏まえ、よりシンプルで合理的かつイノベーティブなアプローチを採用した」とする。以下、第2版の概要を第1ドラフトからの変更も踏まえながら紹介する*6)

A)一般要件

  • 基準適用レベル: 大企業・中小企業の代わりに、国ごとの事情を踏まえ「カテゴリーA」「カテゴリーB」の2レベルに分ける。カテゴリーB企業は、従業員250人未満、年間売上高5,000万ドル/ユーロ未満、バランスシート2,500万ドル/ユーロ未満、Scope 1, 2排出量合計1万tCO2e未満のうち2つ以上を満たすのが条件。低中所得国にはこれより緩い基準を提供。
  • 全体目標: 企業は、遅くとも2050年までにネットゼロを達成するという⽬標に沿って、⾃社の事業とバリューチェーンを移⾏させる「野⼼」を設定しなければならない(カテゴリーBは任意)。第1ドラフトにあった「コミットメント」という言葉を撤回し、あくまでも各企業の全体的意図を問う形にした。
  • 移行計画: 初回の検証(Initial validation)から12か月以内に自社の目標とネットゼロへの取り組みを裏付ける移行計画の公表が求められる(カテゴリーBは任意)。第1ドラフトでは必須と推奨の両レベルが検討されたが、第2ドラフトでは必須事項とされた。
  • セクター基準: セクター別基準が該当し必須である場合はこれに従う。収益の5%以上が金融事業による場合、Scope 3カテゴリー15の目標に「金融機関基準」*7)を適用すること。
  • 第三者保証: 目標設定に用いた数値は第三者機関による保証(最低限、限定的保証)を受け、結果を公表する(カテゴリーBは任意)。

B)目標のベース

  • 基準年: 2015年以降でデータが存在する最新年としていた排出削減目標を立てる上での基準年を、包括的なデータがある最新の年に変更。
  • 短期目標: 申請時から5~10年としていた短期削減目標を、5年に統一。初回認定時には、⾃社の事業や報告サイクルに合わせ、より短い期間の⽬標設定も可能。
  • 中期目標: 初回認定から10年を対象とする中期⽬標を推奨もしくは必須にするか、コメントを求めている。
  • 長期目標: 2050年もしくはそれより前に設定するという規定は踏襲。
  • 目標更新: 更新検証(Renewal validation)を受けるため、短中期目標の期限を迎える24か月前から次の目標をなるべく早めに出すことが奨励される。目標期限から12か月を超えて次目標を提出することは認められない。

C)Scope 1(自社が所有または支配する事業からの直接排出)

  • 目標範囲: 現行ではScope 1, 2合計での目標だったが、Scope 2で再エネ証書など環境属性証明書(EAC)を活用してScope 1排出を相殺するやり方を防ぐため、Scopeごとに個別の⽬標を設定することに。森林・土地・農業(FLAG)に関する排出削減目標は別途立てる。
  • 算入範囲: Scope 1, 2合計排出量の95%以上から、Scope 1排出量の100%をカバーすることに。
  • 目標設定手法: 基準年からネットゼロ目標年にかけて直線的な排出削減を目指す従来からの「線形収縮アプローチ」および特定のセクターに提供されている「セクター別脱炭素化アプローチ」(SDA)に加え、2つの新規アプローチを提案。第1ドラフトにあった「炭素予算維持収縮アプローチ」は削除(図)。
    • 「整合性に基づく目標アプローチ」: 少排出量企業や、成長に伴って総排出量の削減が難しい新興企業および気候対策ソリューションを提供する企業に向け、空調、給湯、輸送などにおける低炭素オプションの導入割合を国際エネルギー機関(IEA)2050ネットゼロシナリオなどに基づいた参照経路(Annex AのTable A.1)に従い線形に増やす(表1)
    • 「資産脱炭素化計画アプローチ」: 資産を一定のサイクルで更新する資本集約型の鉄鋼など高排出産業向けに、線形収縮アプローチもしくはセクター別脱炭素化経路を用いて炭素予算を設定し、これに沿って資産を削減、代替、段階的に廃止する計画を策定、5年ごとのマイルストーンを設定するアプローチを提供。
  • 目標調整: 進捗の検証が行われた後、次の目標を進捗に応じて方法論の設計で調整することができる。第1ドラフトにあった炭素除去クレジット活用のオプションは削除。

図: 第2版では多様なScope 1目標設定手法が許容される
(現行の①②に、③と整合性目標アプローチが加わる。第1ドラフトにあった④は削除)



出典: SBTi*8)を基にゼロボード作成

表1: Scope 1における整合性目標の事例








出典: SBTi*9)  Annex A, Table A.1から抜粋しゼロボード作成

D)Scope 2(他者から供給された電気、熱、蒸気、冷却)

  • 算定基準: 削減目標設定にGHGプロトコルのロケーション基準、マーケット基準のどちらを使うかは任意。第1ドラフトにあったロケーション基準による目標設定の必須化は削除。
  • 短期目標: 電気と熱・蒸気・冷却の目標は切り分ける。電力からの排出量100%をカバー。ただし、限定的な除外(低炭素電力が未提供でEACも利用できない市場を対象)を検討。ロケーション基準での排出量の5%未満の場合、熱・蒸気・冷却を除外できる。除外された排出量と電力消費の割合、どの市場に該当するかを公開。
  • 長期目標: 電気および熱・蒸気・冷却の100%をカバー(カテゴリーBは任意)。
  • 目標設定手法: Annex AのTable A.1を参照(表2)
    • 電気: 購入もしくはEACによるマッチングで低炭素電力の割合を2040年までに100%にするよう線形で増加させる整合性ベースの目標。任意でロケーション基準もしくはマーケット基準での電力排出量の追加目標を設定できる。
    • 熱・蒸気・冷却: ロケーション基準またはマーケット基準の排出量で設定。

表2: Scope 2の目標設定基準


出典: SBTi *10) Annex A, Table A.1からゼロボード作成

  • 電力調達条件
    • 定義: ゼロカーボンでなく低炭素電力(0.024 kgCO2/kWh以下)とし、持続可能性が証明できるバイオマスやCCS付き天然ガス火力(CO2回収率95%以上)の活用が可能に
    • 供給可能性: 低炭素電力・EACは消費と同じ物理的供給可能性地域内で発電された電力由来であること。地域の定義は、「24/7 Carbon-Free Coalition基準」*9)に従う。
    • 時間的マッチング: 単一地域で年間消費量が計10 GWh(1,000万kWh)以上の企業は時間単位でマッチングした電力調達を段階的に必須化(2030年50%、2040年75%、2050年90%)。年間消費量が100MWh(10万kWh)以下の事業所は除外可。
    • 運転期間: 低炭素属性は過去10年以内に運転開始もしくは出力増強した発電設備からのみ取得*10)。2035年までに5年以内に短縮することも検討。
    • 十全性: EACは排他的に使用していることを明確に示し、GHGプロトコルのScope 2品質要件を満たすこと。Annex Eで示された関連する十全性原則に従う。

E)Scope 3(バリューチェーンの活動から生じる間接排出)

  • 適用範囲: 短期目標については、カテゴリーAは必須、カテゴリーBは任意。Scope 3排出量が全体排出量の40%以上となる場合のみの制限は消える。長期目標はいずれも任意。
  • 目標設定範囲: 短期目標はScope 3総排出量の5%を超えるカテゴリーにおいて設定。優先排出源については重点的な削減目標の設定が求められる(第1ドラフトにあった、Scope 3総排出量の1%以上、1万tCO2e以上という高排出活動の規定は削除)。長期目標はScope 3排出量100%をカバー。
    • 優先排出源: 素材生産、輸送・交通、一次産品生産、化石燃料や電力使用製品。Annex 1のTable A.2で例示。
    • 除外可能範囲: 零細企業(従業員10人未満かつ年間売上高もしくはバランスシート200万ユーロ以下)、中古品の購入、Scope 1, 2に算入済みの購入燃料・電力の上流排出、契約がないなど交通手段、燃料やルートに影響を行使できない輸送、従業員通勤、事業運営のコントロールがない上流のリース資産、最終使用が不明な中間製品の下流排出、加工業者と契約関係がない場合の販売製品の加工、ライセンスのもと独立経営で運営され設備管理にコントロールがないフランチャイズ。除外とその正当性を開示すること。
  • 目標設定手法: 長期目標は排出絶対量の削減とするものの、短期的には実現可能性を高めるため整合性ベースの目標とし、目標設定手法に多様なオプションをカテゴリー別で提供(第1ドラフトで必須とされたサプライヤー・エンゲージメント目標は削除)。第1ドラフトで直接削減・間接削減と区分していた介入レベルを、活動・取引先・活動プール・セクターの4レベルでScope 3の削減努力を行うと整理した。
    • 「何年までにScope 3総排出量の何%を削減する」とのScope 3全体に対する野心設定は必須
    • カテゴリーを横断して設定できる目標: 活動の平均排出源単位(tCO2e/t)、量・金額、取引先割合、取引先の低炭素エネルギー使用率のいずれかでAnnex 1のTable A.3で示された5年ごとのベンチマークに整合した進捗を図る(表3)
    • カテゴリー1, 2(原材料と資本財): Scope 3総排出量の5%以上を占めAnnex 1のTable A.2で例示される優先産物については、平均排出源単位もしくは購入量の95%以上が5年ごとのベンチマークに整合、もしくはSBTに整合したサプライヤー*11)からの購入量が95%以上。Tier 1以下に広がる場合は、Tier 1サプライヤーが同様の要求事項を契約や行動規範を通じて上流のTierにカスケードする。その他の産物については、整合したサプライヤー率もしくはサプライヤーの低炭素エネルギー消費率のベンチマークへの整合。
    • カテゴリー4, 6, 9(交通・輸送): 平均排出原単位もしくは交通量の95%以上がベンチマークに整合、SBTに整合したサプライヤーからの交通量が95%以上。Tier 1以下に広がる場合は、Tier 1サプライヤーが同様の要求事項を契約や行動規範を通じて上流Tierにカスケード。もしくは、ゼロエミッション車の交通量割合の増加をベンチマーク(またはIEAネットゼロシナリオ、ICCT交通経路)と整合。

      表3: Scope 3における整合性目標の事例

出典: SBTi *14) Annex A, Table A.3から抜粋しゼロボード作成

  • カテゴリー5, 8(事業廃棄物、上流のリース資産): SBTに整合したサプライヤーからの調達量の割合がベンチマークに整合、もしくはサプライヤーの低炭素エネルギー消費率のベンチマークへの整合。
  • カテゴリー11, 13(販売品使用、下流のリース資産): 化石燃料の販売、製造・販売に関連するサービス、化石燃料を使用する製品、使用段階でGHGを排出する製品について、2050年までに収益ゼロとなるよう線形での減少、もしくは販売削減する一方ネットゼロ整合商品の販売を2050年に100%とする計画。電化製品からの販売後の排出について、SBTに整合した顧客からの収益の割合がベンチマークに整合、最上級のエネルギー効率(例: EUエネルギーラベルのA)製品からの収益または販売数が2040年までに95%以上となるよう線形での増加、もしくは顧客の低炭素エネルギー消費率のベンチマークへの整合。
  • カテゴリー12(販売品の最終処理): 検証されたサーキュラーな最終処理が行われる商品(Cradle to Cradle, ISO 59040, WRAP Circular Living Standards)の収益または販売数の割合が2050年までに95%以上となるよう線形での増加。
  • カテゴリー10, 14(販売品加工、フランチャイズ): SBTに整合した顧客・下流加工業者・フランチャイズからの収益の割合もしくは加工業者・フランチャイズの低炭素エネルギー消費率のベンチマークへの整合。
  • 活動プール: 個別の排出源を追跡するのが困難な場合は「活動プール」内でのパフォーマンスの整合性を目指せばよい(カテゴリーBは任意)。活動プールには、1)土地ベースのサプライシェッド(バイオ素材の収集地域)、2)輸送業務カテゴリー(同じ輸送モード、ルート、貨物、取引ラインのグループ)、3)工場シェッド(地域内で同様の物を製造する工場群)、4)エネルギーシェッド(再エネ介入が消費と関連付けられるグリッド・サブグリッド)がある。活動プールでの排出原単位がベンチマークに整合するか、プール内で生成されたアンバンドルのエネルギー・産物EACの購入により整合性を確保するか、プール内でのSBT認定サプライヤー増大で代替できる。
  • セクターレベル: ネットゼロに整合した製品・サービスの十分な調達が不可能な場合は、アンバンドルのエネルギー・産物EACの購入により、セクターレベルで低炭素代替品の普及を支援し、量的整合性を図ることができる(カテゴリーBは任意)。

F)継続排出への認識と責任

  • 評価制度: たとえ各社がネットゼロへの努力を怠らなかったとしても、1.5℃を実現するため2050年までの継続的な排出への認識と責任が問われる。現行基準の中和とBVCMを再編し、下記の2レベルで努力を評価する任意参加の仕組みを新設する。
    • 認定: 短期目標期間におけるScope 1, 2, 3継続的排出の1%以上に相当する量分のすでに削減成果が発⽣している(事後的な)活動を⽀援、もしくは1%以上に炭素価格(1 tCO2e当たり20ドル以上を推奨)を適用した額を適格な気候行動(緩和、適応、研究開発、損失・損害)の財政支援に充てている。
    • リーダー: 継続的排出量(カテゴリーBはScope 1, 2のみ)の100%に対し1 tCO2e当たり80ドル以上の炭素価格を付け、その資金の40%以上を事後的削減効果活動の支援に、残りを適格な気候行動の支援に充てる。
  • 支援成果: 支援による削減成果をScope 3目標に算入することはできない。
  • クレジット活用:ダブル計上がなく他の用途に転売することがない範囲でカーボンクレジットの購入を支援活動に充てることができる。
  • 長期対応: 2035年以降は継続排出への責任を必須とする(カテゴリーBは任意)。具体的な要求事項・レベルはネットゼロ基準第3版策定の際に検討する。
  • 中和: ネットゼロの目標年およびそれ以降のScope 1, 2, 3残余排出量はすべて炭素除去により中和すること。
    • 除去方法: 残余排出量の41%以上は長期貯留(CCSなど)、残りは短期貯留(森林など)
    • Scope 1: Scope 1の残余排出除去は自社で行うこと。
    • Scope 3: Scope 3の残余排出除去は自社で行うかバリューチェーン上のパートナーと共同で行う。他社が除去した証拠があれば用いることができる。ダブルカウントは認められない。

G)第2版の適用開始時期

  • 第2版発行: 今回のコンサルテーション結果を反映して、2026年中に完成し発行の予定。発行日からの活用が奨励される。
  • 第2版への移行: 2028年1月1日より完全適用される。
  • 第1.3版の有効期限: 「短期基準」(第5.3版)*12)とともに2027年末までは新しい目標の設定に用いてよい。
  • 既存目標: すでに現行基準で目標設定している企業は、その目標年まで現行基準を用いることができる。

日本企業が考慮すべき点

第2版は現行基準ではあいまいだった規定がかなり明確化された一方、第2ドラフトは第1ドラフトへの意見を反映し、また脱炭素への機運が停滞化する中で、企業が具体的に実施できる形に落とした印象を受けた。

サステナビリティ情報開示(IFRS S、SSBJ、GRI、CSRD/ESRS)でも求められるようになった移行計画の策定・公表を必須として足並みを揃えた一方、Scope 1の目標設定手法を4通り提供したことで、日本がGX政策下のエネルギー移行やトランジション・ファイナンスで主張する非直線型の移行経路も勘案され、高排出セクターや新興企業もSBTiに参加しやすくなった。

Scope 2についてはロケーション基準による目標設定が削除されたことで日本企業にとっての面倒が一つ解消され、低炭素電力の割合を2040年までに100%にするというシンプルな目標となった。バイオマスやCCS付き天然ガス火力も低炭素電力に勘案できる可能性があることで調達余地が広がった。その一方で、GHGプロトコル改定議論と同じく、電力購入契約(PPA)やEACによる低炭素電力の調達には供給可能性の条件や時間マッチングが求められる。現在の供給可能地域の定義では日本は10電力地域に分けられることになり、再エネ調達への影響が不可避だ。しかも、時間マッチングがGHGプロトコルと連動して2030年からの適用(大規模消費者に限る)となるのに対し、供給地域の制限はそれより早く第2版の発行時点から適用可能となる。またGHGプロトコルが導入する標準供給サービス(SSS)の考え方*13)の代わりに、低炭素発電所の稼働年数に10年の制限をつけた。これはRE100の15年以内という規定より短く、かつ2035年までには5年に短縮されるというから要注意だ。

Scope 3においては、短期目標はすべてのカテゴリーA企業に必須となった一方で、総排出量の5%を超えるカテゴリーのみ対象とし、従業員通勤など様々な除外項目を設けており、GHGプロトコル改定案より緩やかな規定となっている。カテゴリーごとに多様な整合性目標が提示され、サプライヤーにSBT設定を求めるのは選択肢の一つに留められたことで、具体的な脱炭素活動とつなげやすい。また、個別の排出源の追跡が難しくても、活動プール内やセクターレベルでのパフォーマンス向上で代替でき、どうやってバリューチェーンの排出削減をすればよいか頭を悩ませることは少なくなるだろう。ただし、SBTと整合した調達先や有効なエネルギー・産物EAC、サーキュラー製品が今後どれほど普及するかが今後の行く末を左右するだろう。

新たに設けられた継続排出に対する任意の評価制度は、炭素吸収・貯留に関する技術・プロジェクトへの投資をさらに加速することを意図している。自社排出量のオフセットには依然使えないカーボンクレジットもバリューチェーン外への貢献として評価されることで、需要の拡大が期待される。BVCMとして日本企業がアピールしてきた製品・サービスによる削減貢献量も、もしクレジット化できれば流通させられる余地はある。一方、排出削減効果を生産品の一部に寄せるマスバランス方式のグリーン証書や合成燃料、水素・アンモニアの活用などについては第2ドラフトにも言及がなく、目標設定や実行への算入は現状では難しそうだ。

GHGプロトコル改定議論との微妙なずれも気になるところ。同プロトコルは算定の方法論、SBTiは目標設定・達成方法と役割が異なるので、両者の規定が違うからといって必ずしも問題ではない。とはいえ、Scope 3の算定開示と目標設定の範囲のギャップや従業員通勤など算入除外規定の違いは、企業にとって二重会計を作成する手間が出る可能性もあり、両者のすり合わせが求められる。

パブリック・コンサルテーションへの参加方法

SBTi事務局では、日本時間12月13日16時59分まで第2ドラフトに対する意見をオンラインで募っている*6)。97問の質問が提示され、そのうち内容に関する76問の大多数は選択式なので答えやすい。質問票は英語のみであるが事前にダウンロードできる*14)ので、回答を共同でじっくり考えることもできる。日本からのSBTiへの参加が世界最多であることも鑑み、改定基準が自社やバリューチェーンの脱炭素移行活動に役立つ内容なのか検討し、解釈が難しい点や実務にそぐわない点があれば、ぜひ具体的な提案を出していただきたい。

*1)現在はWe Mean Business Coalitionに参加するコミットメントの一つともなっている。

*2)WWFジャパン「Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)とは」、2023年3月28日 https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/409.html 

*3)Science Based Targets Initiative (SBTi), SBTi Corporate Net-Zero Standard, Version 1.3, September 2025. https://sciencebasedtargets.org/net-zero ; 環境省「SBTi企業ネットゼロ基準(バージョン 1.0)仮訳」https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/Net-Zero-Standard_v1.0_jp.pdf 

*4)現行基準における中小企業の定義については、弊社コラム「SBT認定(Science Based Targets)とは?取得方法やメリット、認定の仕組みを紹介」を参照のこと。https://www.zeroboard.jp/column/5748

*5)WWFジャパン、同上

*6)SBTi, SBTi Corporate Net-Zero Standard, Version 2.0, Draft for Second Public Consultation, November 2025. https://sciencebasedtargets.org/consultations/cnzs-v2-second-consultation; SBTi, What’s Next for Net-Zero: An updated draft of the Corporate Net-Zero Standard V2, 6 November 2025. https://sciencebasedtargets.org/blog/whats-next-for-net-zero-an-updated-draft-of-the-corporate-net-zero-standard-v2; SBTi, Corporate Net-Zero Standard (CNZS) V2, Public Consultation #2, Key Updates and Areas Under Consultation, November 2025. https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/2nd-Consultation-Draft-CNZS-V2-_-Detailed-Explanatory-Guide.pdf

*7)SBTi, Financial Institutions Net-Zero Standard, version 1.0, July 2025. https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Financial-Institutions-Net-Zero-Standard.pdf 

*8)SBTi, Deep Dive: Evolving approaches to address Scope 1 emissions, November 2025. https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Deep-dive-Evolving-approaches-to-address-scope-1-emissions.pdf 

*9)The Climate Group 24/7 Carbon-Free Coalition, 24/7 Carbon-Free Electricity Technical Criteria and Appendices, version 1.0.1, 26 August 2025. https://www.theclimategroup.org/247-technical-guidance 

*10)RE100のSection 5、24/7 Carbon-free Coalition基準Section 5.3.2に沿って15年以内の運転開始もしくは出力増強の規定を適用した場合は例外とする。The Climate Group and CDP, RE100 Technical Criteria, version 5.0, 24 March 2025. https://www.there100.org/sites/re100/files/2025-04/RE100%20technical%20criteria%20%2B%20appendices%20%2815%20April%202025%29.pdf; The Climate Group 24/7 Carbon-Free Coalition, 同上 

*11)取引先の第三者検証を経たSBT認定は必須ではなく推奨。

*12)SBTi, SBTi Corporate Near-Term Criteria, version 5.3, September 2025. https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/SBTi-criteria.pdf 

*13)公的支援を受けた再エネ電源を特定組織が100%独占するのは不公平で、平均割合までしか主張を認めない。この考え方が導入されれば、FIT非化石証書などの活用は難しくなると考えられる。
*14)
SBTi, Corporate Net-Zero Standard Version 2.0, Second public consultation draft: Survey questions, November 2025. https://files.sciencebasedtargets.org/production/files/Second-Consultation-Survey-CNZS-V2-Draft.pdf

  • 記事を書いた人
    待場 智雄(ゼロボード総研 所長)

    朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりGRIの審議機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事、2025年3月よりGHGプロトコルTWGメンバーを務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。