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コラム

2026年度から始まる「日本版排出量取引制度(GX-ETS)」 議論の最新動向は

目次

本政府が進めるGX政策の柱の1つである排出量取引制度(GX-ETS)が、2026年度から本格的な制度化に向けて始動します。

排出量取引制度(Emissions Trading System:ETS)は、欧州連合(EU)が2005年に世界で初めて温室効果ガス(GHG)を対象に本格導入した制度であり、その後、韓国(2015年)や中国(2021年)などでも導入・拡大が進んできました。これらの制度は、GHG排出量に価格を付けて削減を促す市場メカニズムとして国際的に広く実装され、世界の気候政策の標準的手法となっています。こうした中、EUでは炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入し、域外からの輸入にも実質的な炭素価格を課す仕組みを整備しています。 

脱炭素社会の実現と経済成長の両立を目指すGX-ETSは、企業が任意で参加する試行段階を経て義務化フェーズに移行するにあたり、対象企業や市場運営、実効性の担保に関する議論が活発になっています。欧州から20年、韓国から10年遅れてETS制度が本格導入されることになりますが、先行国の経験・知見や国際的な競争環境の変化を踏まえた制度設計が重視されています。本稿では、GX-ETSの基本スキームや対象企業、現時点での論点を整理します。

GX-ETS議論の現状

基本スキーム

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、経済産業省主導のもと産官学が連携し変革を行うプラットフォーム、GXリーグ。そのGXリーグの中で導入が検証されてきた排出量取引制度のことをGX-ETSと言います。同制度では、政府が一定期間に排出できるGHG総量を設定し、企業に対してその排出枠を割り当てます。企業は自らの実際の排出量と割当量を比較し、排出量が割当量を下回れば余剰分を販売でき、逆に上回れば市場から排出枠を購入する必要があります。これにより、市場を介した価格形成を通じて民間企業全体での効率的なGHG削減を促すことになります。

来年度から義務化へ

GX-ETSは2023年度から第1フェーズ(企業が任意参加する試行期間)が始まりました。企業が自主的に排出削減目標を設定・達成することで、削減クレジット(企業がGHG排出量を基準よりも削減した成果を認証し、排出量の調整に用いることができる)が創出される仕組みで運用されてきました。

そして2026年度から、排出量取引が義務化・本格稼働に移行する「第2フェーズ」に入る予定です。政府はGX推進法の改正により、企業に対し2050年カーボンニュートラルの実現に向けた排出削減目標や、その他関連事項を含む計画の策定・提出を課す方針です。そのうえでGHG排出量の算定・報告、排出枠の償却を義務づけていきます。*1)

排出権取引の対象は?

対象企業の基準

対象となるのは、単一の事業所におけるCO2の直接排出量が、前年度までの3年度平均で10万トン以上となる事業所を保有する法人です。これに該当する企業は製造業、電力、化学、セメント、石油、鉄鋼、自動車などの大規模排出セクターが中心で、詳細なリストは公開されていないものの約300〜400社が対象となる見込みです。この規模の企業の排出量は、日本国内全体の約60%を占めると推計されています*2)。 対象となった法人については、グループ単位で排出量管理や投資判断を行っている実態を踏まえ、親会社・子会社が共同して排出目標量等を届け出ることが認められています。

対象企業の義務

対象企業は、排出枠の基礎となる排出目標量や、排出実績量を報告するにあたり、あらかじめ国の登録を受けた登録確認機関による確認を受けることが義務となります。 制度開始を控え、すでに登録確認機関の登録申請がスタート。対象事業者は制度開始に向け、経産省が公表する登録確認機関との契約等を進める必要があります。*3)

制度設計とスケジュール

2026年度から始まる日本版GX-ETSの第2フェーズでは、政府が割当量を決定するとともに、企業は市場での売買を通じて排出枠を調達・売却することが求められます。制度の開始を控え2026年3月末ごろには、経産省が割当や算定方法等に関する各種ガイドラインを公表する予定です。 2026年度は割当申請の基礎となる自社の排出量等を算定する期間とし、これを踏まえ初年度の割当を2027年度に実施。取引市場の開設も2027年秋ごろとなる見込みです。*1)

現段階での議論点

扱うクレジットの範囲

対象企業は毎年度、実排出量と同量の排出枠を償却する義務を負いますが、その排出枠は無償配分分を含みます。実排出量が無償配分量を上回る場合にのみ、不足分について市場から排出枠を調達する必要があります。 その際、不足分の一部については、排出枠に代えて、政府が運営するJ-クレジットまたはJCM(二国間クレジット制度)を用いることが認められています。なお、排出枠の価格形成を促し、対象者の削減インセンティブを確保する観点から、クレジットの活用可能量は、各年度の実排出量(クレジット無効化量を控除する前の排出量)の10%を上限とされています。

価格安定化

排出枠価格の安定性や市場流動性をどう確保するかも重要な論点です。政府は価格安定化の措置として、取引価格の上限・下限を設定し、その価格帯をあらかじめ示すことで、取引価格の予見可能性を高め、脱炭素投資を促進していく方針です。これは、排出枠価格が高騰した場合には、あらかじめ定めた上限価格を支払うことで、義務履行を可能としたり、市場における取引価格が下限価格を下回る期間が一定期間以上となる場合には、リバースオークションを実施し、排出枠の流通量を調整したりするといったものです。 なお2025年12月19日の経産省の発表によると、2026年度は上限価格が4,300円/t-CO2、下限価格が1,700円/t-CO2程度となる見通しです。*4)

取引市場の運営体制

政府は排出枠取引における適正な価格形成を促すため、制度の運営にあたるGX推進機構に排出権取引市場の運営を担わせます。また、市場取引参加者については、取引の活性化と取引秩序の維持の両立を図る観点から、取引に関する一定の経験を有するなどの要件を満たせば制度対象者以外の参加も認める方針です。

第三者検証

制度の実効性を担保するため、排出実績について第三者による検証が義務化される方針です。ただ、検証を行う第三者機関や制度対象事業者側での体制整備に一定の期間を要することから、排出実績の確認に関して当初3年間は限定的にし、2029年度以降、大規模事業所を対象として段階的に合理的水準の確認を求めていく方針です。保証の基準等の詳細については2026年度以降に別途検討されます。

実効性あるETSをどう担保するか

2026年度に本格始動するGX-ETSは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、試行錯誤が続く取り組みの1つです。任意参加の試行期間を経て、法制度化・義務化へと移行していく第2フェーズの始まりを前に、いまだ市場参加者の要件、手続きの詳細など多くの検討課題が残されています。ただ一方で、制度設計が適切に進めば、日本企業の脱炭素競争力を高める強力な施策となる可能性も秘めています。 GX-ETSの目指すところは、低炭素技術への投資を促し、企業の競争力強化につなげることです。制度を通じて再生可能エネルギー導入や省エネ投資、グリーン技術の開発促進を後押しすることで、経済成長と脱炭素を両立する「実効性のある制度」とする狙いがあります。 制度開始に向け経産省から公表される詳細な情報やルールの変更を注視しつつ、実効性ある排出量取引市場の構築を目指していくことになるでしょう。 

2026年2月14日までGX-ETSについてのパブリック・コメントを募集しています。関心をお持ちの方は、ぜひコメントしてみてください。
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律施行規則及び脱炭素成長型経済構造移行推進機構の財務及び会計に関する省令の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募

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資料ダウンロード

*1) 産業構造審議会排出量取引制度小委員会「中間整理(案)~排出枠の割当ての実施指針等に関する事項~」、経済産業省、令和7年12月9日 www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/006_03_00.pdf

2) 内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)」2025年12月19日

3) 経済産業省「排出量取引制度」ウェブサイト www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html

4) 経済産業省GXグループ「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」、2025年12月19日 www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/pdf/007_03_00.pdf