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国連グローバル・コンパクト(UNGC)とは?CSR調達やサプライチェーン管理との関係を実務レベルで解説

目次

現代のグローバルビジネスにおいて、気候変動、強制労働、汚職など、企業が直面するリスクは自社の境界線を超え、バリューチェーン全体へと拡大しています。これに対応するために、取引先を含めた供給網全体で社会的責任を果たす「CSR調達」が、企業のレジリエンス(強靭性)を左右する核心的な経営課題となっています。本記事では、世界最大のサステナビリティ・イニシアティブである「国連グローバル・コンパクト」(UNGC)の枠組みを基軸に、CSR調達の定義、導入のメリット、そして実務への適用方法を詳説します。


国連グローバル・コンパクト(UNGC)の概要と10原則

概要と国際的な意義

UNGC※1は、1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)の場でコフィー・アナン国連事務総長(当時)が提唱し、翌2000年に発足した世界最大のサステナビリティ・イニシアティブです。現在、世界160カ国以上から15,000社を超える企業、3,000以上の非ビジネス団体が署名しています。

日本国内においては、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)※2が活動拠点となっており、「サプライチェーン分科会」など専門的な分科会を通じ、日本企業の実務における課題解決や好事例の共有が活発に行われています。

国連グローバル・コンパクト(UNGC)の10原則※3:サプライチェーン管理への視座

UNGC署名企業は、以下の4分野10原則を自社の戦略やオペレーションに組み込むことが求められます。多くの企業が、サプライヤー向けの行動規範(コード・オブ・コンダクト)を作成する際、GC10原則の4分野(人権・労働・環境・腐敗防止)を採用しています。 

【人権】

  • 原則1: 企業は、国際的に宣言されている人権の保護を支持し、尊重すべきである
  • 原則2: 企業は、自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである
    • 直接の取引先だけでなく、Tier 2(二次取引先)以降で発生する「顕著な人権リスク」への加担を防ぐことが重要です。

【労働】

  • 原則3: 企業は、結社の自由と団体交渉権の実効的な承認を支持すべきである
  • 原則4: 企業は、あらゆる形態の強制労働の撤廃を支持すべきである
  • 原則5: 企業は、児童労働の実効的な廃止を支持すべきである
  • 原則6: 企業は、雇用と職業における差別の撤廃を支持すべきである

【環境】

  • 原則7: 企業は、環境上の課題に対する予防原則的アプローチを支持すべきである
  • 原則8: 企業は、環境に関するより大きな責任を担うためのイニシアティブをとるべきである
  • 原則9: 企業は、環境に優しい技術の開発と普及を奨励すべきである
    • 原則7の「予防原則的アプローチ」は、たとえ科学的証明が不十分であっても環境破壊のリスクがある場合には対策を講じるという姿勢であり、サプライヤー選定時の重要な評価軸となります。

【腐敗防止】

  • 原則10: 企業は、強要と贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗の防止に取り組むべきである
    • 第三国での調達において、贈収賄は法的制裁だけでなく、事業継続そのものを危うくする致命的なリスクです。

CSR調達の定義と従来慣行との違い

CSR調達とは、品質・価格・納期(QDC)という従来の評価軸に、環境・労働・人権・腐敗防止といったESG(環境・社会・ガバナンス)要素を統合するプロセスです。

従来の調達とCSR調達の比較


従来の調達

CSR調達

重視する指標

価格、品質、納期(QDC)

QDC + ESG要素(環境・人権等)

対象範囲

直接の取引先(Tier 1)

サプライチェーン全体(Tier Nまで)

目的

短期的な自社利益、コスト低減

長期的な価値創造、リスク回避、社会的信頼

取引先との関係

対立、価格交渉の相手

共通課題を解決する戦略的パートナー

リスク管理

経済的・物理的供給リスク

社会的・環境的影響を含む包括的リスク

透明性の要求

限定的(価格構成など)

広範(原材料の原産地、労働条件など)


なぜ今、CSR調達が不可欠なのか:規制と経済的メリット

リスクマネジメントと国際規制

「OECD責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」※4をはじめとする国際指針により、企業は自社のみならず、サプライチェーン上の負の影響を特定し、是正する義務(デュー・ディリジェンス)を負っています。欧州の企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)やドイツのサプライチェーン・デュー・ディリジェンス法(LkSG)など、法制化の動きは加速しており、対応を怠れば巨額の罰金や市場排除の対象となります。

明確なビジネスメリット

サステナビリティ評価機関EcoVadisのデータ※5によれば、CSR調達の実践は単なるコスト増ではなく、明確な経済的リターンをもたらします。

  • ブランド価値の向上(15〜30%):責任ある調達に取り組む企業は、顧客や投資家からの信頼が高まり、ブランド価値(ブランド評価額や顧客ロイヤルティなど)が向上するとされています。 
  • 資本コストの低減:サステナビリティに積極的に取り組む企業の約90%が、資金調達において有利な条件を得ており、結果として資本コストの低減につながる傾向があると報告されています。 
  • 調達コストの削減(9〜16%):廃棄物の削減やリソース効率の向上、過剰仕様の見直しなどを通じて、サプライチェーン全体でのコスト削減効果が期待されます。 
  • レジリエンスの強化:潜在的なリスクを早期に特定・対応することで、供給停止や品質問題による経済的損失の回避につながります。

国連グローバル・コンパクト(UNGC)とCSR調達を繋ぐ「共通言語」

UNGCの10原則は、多様な文化や法規制を考慮しつつグローバルなサプライヤーと対話する際の「共通言語」として機能します。企業が独自の基準を押し付けるのではなく、「国連が提唱する世界共通のスタンダード」をベースに交渉を進めることで、サプライヤー側の理解と納得を得やすくなります。

また、UNGCが提供する「ディーセント・ワーク・ツールキット※6は、コストと労働条件のトレードオフなど調達担当者が直面するジレンマを解決し、調達部門の評価指標にサステナビリティの観点を組み込むための具体的な手法を提供しています。 

CSR調達の進め方

ステップ1:方針の策定

組織としての「サステナブル調達方針」を策定し、経営層によるコミットメントを表明します。これは単なる理念ではなく、経営戦略の一部として位置づける必要があります。

ステップ2:サプライヤー行動規範(CoC)の整備

UNGCの10原則を具体化した「サプライヤー行動規範」を作成します。

  • 実務のポイント: UNGCネットワーク・イタリアのガイドライン※7等が示す通り、規範を策定する目的は「負の影響の防止と軽減」にあります。単に配布するだけでなく、基本契約書の一部に組み込むことで法的実効性を持たせ、責任ある契約が実現できます。

ステップ3:評価とデュー・ディリジェンス

サプライヤーの現状を把握します。

  • SAQ(自己評価質問票): CSR調達において最も広く利用されている手法の一つがSAQです。人権・労働・環境・腐敗防止などの項目について、UNGCの「CSR調達セルフ・アセスメント質問表」※8や自社で用意した質問票に対しサプライヤー自身に回答してもらうことで、サプライチェーン全体のリスクを効率的に把握できます。特にサプライヤー数が多い企業にとって、初期的なスクリーニング手段として有効です。
  • 第三者評価: EcoVadis、Sedex、RBAなどのサステナビリティ評価プラットフォームを活用することで、外部基準に基づいた客観的なスコアを取得することができます。
  • 現地監査: 高リスク地域や高リスク産業のサプライヤーに対しては、監査や現地調査を含む詳細なデュー・ディリジェンスを実施します。労働者インタビューなどを通じて、潜在的な人権侵害リスクを特定します。

実務のポイントとして、SAQだけでサプライヤーの実態を完全に把握することは難しいため、リスクレベルに応じて第三者評価や現地監査などを組み合わせた多層的な評価が推奨されています。

ステップ4:是正とエンゲージメント

評価で課題が見つかった場合、即座に取引を停止するのではなく、是正行動計画の策定を促します。

  • 実務のポイント: 重要なのはキャパシティ・ビルディングです。トレーニングの提供や対話を通じ、サプライヤーが自律的に改善を継続できる体制を支援します。これこそが、UNGCが掲げる「持続可能な経済の構築」の実践です。

成功のための重要ポイント:組織的な推進体制

  1. 自社のKPI設定: 調達担当者の評価に「サプライヤーのESGスコア改善率」などを組み込みます。コストや納期を過度に重視した調達は、サプライヤーに無理な要求を強いることになり、結果として長時間労働や不適切な労働慣行といった人権リスクにつながる可能性があります。そのため、評価制度のバランスを整えることが不可欠です。 
  2. 段階的アプローチ: 数千社のサプライヤーに対し一律の対応は不可能です。調達額、代替困難性、国・地域のリスクに基づき優先度を決め、主要な取引先から段階的に展開します。
  3. 横断的連携: 調達部門、サステナビリティ推進部門、法務部門、そして経営層が連携する体制を構築します。GCNJの分科会などを活用し、業界他社との共同監査を検討することも有効な手段です。

まとめ

CSR調達は、法令遵守という「守り」のフェーズから、企業価値と競争優位性を高める「攻め」の経営戦略へと進化しています。UNGCの10原則を指針とし、サプライヤーを「共に持続可能な未来を築くパートナー」としてエンゲージすることが求められています。

その実現には、サプライチェーンの透明性を高めるだけでなく、サプライヤーの状況を継続的に把握し、改善につなげる実務的な仕組みの構築が不可欠です。

一方実務では、サプライヤー数の多さや情報の分散により、ESG情報の収集・管理が負担となり、取り組みが形骸化してしまうケースも少なくありません。

こうした課題に対しては、SAQを活用したサプライヤー評価が有効です。サプライチェーン全体のリスクを可視化し、優先順位をつけた対応を進めることが可能になります。

<参考>

※1:国連グローバル・コンパクト(UNGC)
https://www.ungcjn.org/gcnj/about.html

※2:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)
https://www.ungcjn.org/

※3:国連グローバル・コンパクト 4 分野 10 原則の解説 
https://www.ungcjn.org/library/files/10principles.pdf

※4:OECD責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス
https://www.oecd.org/ja/publications/2018/02/oecd-due-diligence-guidance-for-responsible-business-conduct_c669bd57.html

※5:EcoVadis, Sustainable Procurement
https://ecovadis.com/solutions/sustainable-procurement/

※6:UN Global Compact,Decent Work Toolkit for Sustainable Procurement
https://sustainableprocurement.unglobalcompact.org/

※7:UNGCネットワーク・イタリア ガイドライン
https://www.globalcompactnetwork.org/en/tags/guidelines.html

※8:UNGC「CSR調達セルフ・アセスメント質問表」https://www.ungcjn.org/activities/help/index.html