「ネットゼロ」と「ネイチャーポジティブ」の統合へ ――グローバル・ネイチャー・ポジティブ・サミット 開会スピーチに見る、これからのサステナビリティ経営の本質
ゼロボード総研
自然資本チーム シニアフェロー
石森昌子
2026年7月14日、熊本で開催された「グローバル・ネイチャー・ポジティブ・サミット」における高円宮妃殿下の開会スピーチは、気候危機と生物多様性の喪失という人類共通の課題に対し、根源的かつ力強いメッセージを投げかけるものであった。本稿では、特に印象的であったメッセージ(※筆者要約/和訳)について引用して紹介したい。
妃殿下は、国土の67%を森林が占める日本の豊かな自然環境と、自然がもたらす恵みに感謝し、自然界と密接に結びついてきた日本人の伝統的な姿勢に触れられた上で、
「人間は自然の一部であり、自然から切り離された存在ではなく、ましてや自然より上位にあるわけでもない。私たちこそが、この地球生態系の一部であり続けたいと願っている」「率直に言えば、自然は人間がいなくても生き残ることができる。自分たちの行動を正さなければならないのは私たち自身です」と、人類の傲慢さに鋭い警鐘を鳴らされたのである。
スピーチの中で特に私の関心を惹いたのは、企業の姿勢について語られた点だ。
「極地の氷が溶けつつあり、地球の空調システムが機能不全に陥っています。他の何をするよりもまず、気候変動の進行を遅らせることに優先的に取り組むべきです」と「地球の沸騰化」に対する強い危機感を示されたうえで、「協定に署名する際には、細部や経済的利益、事業投資などにのみ焦点を当てるのではなく、一歩引いて優先順位を真剣に検討してほしい」と語られた。
ゼロボード総研として企業の脱炭素化やサステナビリティ経営を研究・支援する立場から見ると、この指摘は現在のビジネス界が直面している本質的な課題を突いている。多くの企業がサプライチェーン全体のGHG(温室効果ガス)排出量の可視化や削減に取り組んでいる。しかし、妃殿下が語られたように、排出量の算定や削減は、単なる「規制対応」や「投資家へのアピール」にとどまってはならない。
「人類が月へ人を送り込めるのなら、解決策を思いつくこともできるはずです」という力強い妃殿下の言葉には、人類の知性への期待が込められている。妃殿下はさらに、「何十年にもわたる研究によって最善の道であると示されてきた科学的・政治的な道筋を堅持することが何よりも重要です」と強調された。
いま我々企業に求められているのは、優れた知性を真に価値ある方法で活用し、地球環境の修復のために用いることだ。 ルール作りや経済的リターンという細部に埋没することなく、機能不全に陥った地球というシステムの修復に向けた「具体的なアクション」を最優先すべきなのだ。
また、「日本人は、農作物を育て、森林を利用し、海へ出ることで、常に自然と共生してきました。私たちは自然の力に相応の敬意を払い、古木や巨岩、昇る朝日、どこまでも広がる海を前にしたとき、自ずと厳粛な気持ちになり、自然から与えられる恵みに感謝し、心をこめて祈りを捧げる。それこそが、私たちが大切に受け継いできた姿勢なのです」と日本人が培ってきた自然観に触れられた。
日本古来の自然観を現代の企業経営に実装し、世界をリードしていく。それこそが、サステナビリティの前線に立つ日本企業に課せられた次なる使命でないだろうか。
「どんなにささやかな行動であっても、何かをすることは、何もしないことよりはるかに良い」。スピーチの結びにあるこの言葉は、私たち全員の背中を押すエールである。
我々一人ひとりが利便性や快適さ、物質的利益への過度な追求を少しだけ控え、自然の恵みに敬意を払うこと。そして、企業が科学的データを武器に透明性のあるアクションを加速させること。その両輪が回れば、地球の生態系という繊細なバランスを保つ解決策は「間違いなく手の届くところにある」と確信している。
開催概要
グローバル・ネイチャー・ポジティブ・サミット 2026 熊本
| 日程 | 2026年7月14日(火)-15日(水) |
| 会場 | 熊本城ホール |
| 主催 | Nature Positive Initiative(NPI)、国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J) |
| 共催 | 一般社団法人 イクレイ日本、環境省、農林水産省、国土交通省、サミット発起人組織委員会 |
| 協力 | 株式会社 日経BP |
| 後援 | 2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ、一般社団法人 日本経済団体連合会、経団連自然保護協議会、金融庁、UN Global Compact – Japan |
| 公式URL | https://events.nikkeibp.co.jp/event/2026/GNPS_jp/ |