GHGプロトコルScope 2改定パブコメ結果公表 —アワリーマッチング等での対立で複数手法を検討へ
グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)副議長
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー
ゼロボード総研所長
待場 智雄
GHGプロトコル事務局が2026年7月29日、Scope 2(他者から供給された電気、熱、蒸気の使用による間接排出)算定・開示方法の改定案に対するパブリックコンサルテーション(パブコメ)のフィードバック集約結果を公表した*1)。56カ国から1,000件超も寄せられたインプットを踏まえ、同プロトコルの独立基準委員会(ISB)は専門作業部会(TWG)に対し、マーケット基準での算定・開示においての複数のアプローチの検討を指示した*2)。本稿では、日本からのもの含めた主要なフィードバックのまとめと各方面の反応、今後のプロセスと日本企業の対応を整理する。
改定提案の概要
現行の『Scope 2ガイダンス』(2015年)は、購入電力等の間接排出について、ロケーション基準とマーケット基準の二重報告を求めている。改定プロセスでは、約45名の専門家からなるScope 2 TWGが提案を練り、2025年7月にISBがパブコメへの付議を承認した。意見募集が同10月20日から2026年1月31日まで行われた*3)。
提案は二重報告を維持しつつも、マーケット基準では電力契約証書の品質基準を厳格化し、①高電力消費組織に対する時間帯別(アワリー)マッチングの義務化、②消費地点へ物理的に供給可能な範囲からの調達(供給可能性)、③FIT(固定価格買取)等の公的・義務的供給を「標準供給サービス」(SSS)として按分扱いし、特定企業による独占的主張を制限、④残余ミックスの定義更新と、残余ミックスがない場合の化石燃料ベース係数のデフォルト適用——などを打ち出した(図)。ロケーション基準では、地理的粒度・時間粒度・輸入反映を優先する排出係数階層と、「アクセス可能」(無償・公開・信頼できる情報源)で最も精緻な係数の使用義務、が提案された。負荷プロファイルの利用、低消費組織へのアワリーマッチング免除、既存契約のレガシー条項、段階的適用など、実施可能性を高める措置も併せて示された(詳細は弊社インサイト「GHGプロトコルScope2改定案、パブコメ参加ガイド」*3)をご参照ください)。
図 :Scope2 改定案の概要
GHG Protocol資料*4)を基にゼロボード作成
フィードバックの要点
回答は1,072件で56カ国から寄せられた。組織類型では企業が43.5%、業界団体9.6%、コンサルタント9.0%で、これらを合わせると3分の2近くの約62%を占めた。NGO・市民社会は8.6%、学術・研究4.1%、電力8.5%、金融機関は2.2%と少数だった。地域別では欧州35.7%、北米34.1%、東アジア17.4%(186件)が中心である。全般として、マーケット基準ではアワリーと供給可能性への支持が低く、残余ミックス・SSS・デフォルト係数適用などには相対的に中程度の支持が集まった。ロケーション基準の階層案への賛否は拮抗している*5)。以下、主要論点を整理する(表)。
1) アワリーマッチング
時間帯別マッチングは、909回答のうち支持22%、中立7%、低支持・不支持70%と、全体として強い反発を受けた。企業・業界団体では支持が各12%、低支持・不支持が各82%に達した。日本を含む東アジアでも支持15%、低支持・不支持81%と反対色が濃い。一方、データ分析・ソフトウェア提供者では支持が81%を集め、対照的な結果を示した。高粒度のエネルギー認証基準を策定する英非営利団体EnergyTagによれば、このうちグーグルの支持が識別可能である*6)。
支持側は、夜間に太陽光の消費を主張するような時間ずれを防ぎ、インベントリー(データ目録)の科学的完全性とグリーンウォッシュリスクの低減につながる点を強調した。需要・供給タイミングの精度向上が、蓄電・需要柔軟性・クリーンなベースロードなど、さらなる脱炭素に必要な技術への投資を促すとの指摘も多い。懸念側では、自主的再エネ調達市場への参加の抑制につながる(87%)、報告・監査負担とコスト増(86%)、義務(shall)ではなく任意(may)とすべき(84%)が上位を占めた。低消費組織へのアワリー免除措置自体には広く支持があり、748回答のうち76%が免除に賛成した。
2) 供給可能性(デリバラビリティ)
供給可能性については、875回答のうち支持30%、中立11%、低支持・不支持59%だった。企業では支持19%、低支持・不支持71%と反対が強い一方、他のステークホルダーでは相対的に支持が高かった。支持側は、消費グリッドと無関係な遠隔地の証書ではインベントリーの精度が損なわれると主張する。反対側の最多理由は、市場境界の狭小化が脱炭素ポテンシャルの大きい地域への投資を阻害する可能性への懸念(87%)で、長期電力購入契約(PPA)を避けその都度再エネ証書を買う短期調達に寄る可能性(72%)も警戒された。集約文書には、日本の非化石証書が全国規模で二重計上を防ぐ仕組みがある以上、供給可能性要件の追加は不要だとの意見も記録されている。
3) 標準供給サービス(SSS)
SSS導入は、522回答のうち支持49%、中立21%、反対30%と、上記2要件より支持が高かった。再エネ消費の公正な按分と二重計上防止への期待がある一方で、東アジアからは支持19%、反対66%と手厳しい結果が示された。日本・台湾・マレーシアなどでは、FIT由来の証書が自主調達の大半を占めるため、SSSの勘案で適格証書が大幅に縮小し、価格上昇や調達意欲の低下を招くとの懸念が強い。部分的な補助金やFITの扱いなど、定義の明確化を求める声も多く出た。
4) レガシー条項
上記要件ではマーケット基準で算入できなく可能性のある既存の長期契約を新基準発効後も一定期間認めるレガシー条項には、801回答のうち90%が支持を寄せた。市場の信頼維持と早期対応者への公平性の観点から、ほぼコンセンサスに近い。設計面では、適用起点(契約締結時か発電開始日か)や有効期間の具体化が引き続き論点となる。
5) その他の主要論点
ロケーション基準: 排出係数階層については、支持40%、低支持・不支持44%、中立17%と賛否が拮抗。東アジアでは支持23%、低支持・不支持60%と厳しい。地理的粒度・時間粒度の精緻化は正確性向上への期待がある一方、地域境界の狭さや義務的開示との整合性、コスト増が懸念された。「アクセス可能」の定義(無償・公開・信頼できる情報源)自体には広い支持があったが、最も精緻な係数の使用義務への支持は分かれた。
残余ミックスの定義更新: 537回答のうち支持59%、低支持・不支持23%。二重計上防止と定義明確化への期待が強い一方、東アジアでは支持29%、低支持・不支持53%とやはり厳しい。市場境界単位での残余ミックス整備の実施可能性が争点となった。
化石燃料ベース係数のデフォルト化: 残余ミックスがない場合にグリッド平均ではなく化石燃料ベースの係数を用いる案は、522回答のうち支持46%、低支持・不支持39%と拮抗した。データの保守性、再エネ調達促進への評価と、データ不足地域での排出報告値増への懸念が対立している。
実施可能性措置: 様々な免除措置、負荷プロファイルの活用、段階的導入には幅広い支持があるが、それが実施可能性の観点から十分かについての評価が分かれた。ISBは、算定・開示方法の厳格化に免除等の措置を加えた現行提案では、企業の参加障壁を下げることにも系統上に実際に再エネが供給される実効性を高めることにも、十分に有効でないと整理している。
表: Scope 2 改定案へのフィードバック
| 領域 | 論点 | 意見の全体傾向 | 要点 |
|---|---|---|---|
| マーケット基準 | アワリーマッチング | 支持22%/中立7%/低支持・不支持70%(企業は支持12%) | 最も反発が強い中核論点 |
| 供給可能性 | 支持30%/中立11%/低支持・不支持59%(企業は支持19%) | 遠隔地証書制限に反対多し | |
| SSS(FIT等の按分) | 支持49%/中立21%/反対30%(東アジアは支持19%) | 全体は中程度の支持、アジアは厳しい | |
| 残余ミックスの定義更新 | 支持59%/中立18%/低支持・不支持23%(東アジアは支持29%) | 二重計上防止への期待。東アジアは慎重 | |
| 化石燃料ベース係数のデフォルト化 | 支持46%/中立14%/低支持・不支持39% | 賛否拮抗。保守性・調達促進 vs 排出報告値増懸念 | |
| ロケーション基準 | 排出係数階層 | 支持40%/中立17%/低支持・不支持44%(東アジアは低支持・不支持60%) | 賛否拮抗。精緻化と負担・比較可能性が対立 |
| 「アクセス可能」な係数の定義 | 支持80% | 定義自体は受け入れられやすい | |
| 最も精緻な係数の使用 | 支持40%/中立42%/低支持・不支持18%(東アジアは低支持・不支持62%) | 定義は支持も、義務化には反発 | |
| 実施可能性を高めるための措置 | 中小・低消費組織はアワリーマッチング免除 | 支持76% | 広い支持 |
| レガシー条項 | 支持90% | ほぼコンセンサス |
各方面の反応
GHGプロトコルを基に算定・開示を行う産業界側は、全体としてアワリーマッチングや供給可能性の適用への反対が最も鮮明で、コスト負担増、自主調達市場の縮小、PPAの困難化を懸念する。一方、EnergyTagは、グーグル、仏エンジー、シエラクラブなど100組織超がScope 2改定案を支持したとし、世界で1,500社超がすでに時間帯別会計を実施し、世界電力需要の73%を占める国でそれに対応する料金体系が利用可能だとして「理論ではなく現実」だと主張する。地熱・蓄電など、年次単位のマッチングでは評価されにくい技術の開発者も支持側に並ぶ*6)。
科学的完全性やグリーンウォッシュ防止の観点から、NGO・学術方面からは改定案への支持が相対的に高いが、アワリーマッチングへの支持はNGOで48%、学術で47%に留まり、賛否は分かれている。投資家・金融機関からの回答数は限られたが、アワリー支持は26%にとどまる一方で、SSS支持は86%と高く、市場の透明性・二重計上防止への関心がうかがえる。日本の全国銀行協会は、むしろ厳格化によるサステナブルファイナンスへの副作用を警戒する意見を出している*7)。
このほか、日本から寄せられた意見や関連する論点として、スマートメーターの普及により時間帯別消費データの取得環境は相対的に整いつつある一方、負荷プロファイル利用が国内規制の年次指標と乖離しうるとの指摘、非化石証書の全国トラッキングを根拠に供給可能性要件の不要論、FITと属性取引の両面性によるSSS分類の難しさ、などが集約文書に記載されている。東アジア全体の意見割合(アワリー支持15%、SSS支持19%、残余ミックス支持29%など)は、日本企業・産業団体の慎重姿勢と整合している。
SBTi第2版でのアワリーマッチングの扱い
科学的目標イニシアティブ(SBTi)は2026年6月、企業ネットゼロ基準の第2版を公表した。当初案では大口需要家への段階的なアワリーマッチング義務も検討されたが、最終版では目標進捗の判定には年次マッチングを維持した。その代わり、カテゴリーA(大企業+高所得国の中堅企業)で供給可能地域内の年間電力消費量が10 GWh以上の企業には、アワリーマッチング比率の算定・開示を求め、任意のリーダーシップ評価プログラム(2030年までに消費の50%以上を時間帯別に低炭素電力とマッチ、2035年まで75%以上、以降90%以上)を設けた。SBTiは、Scope 2改定の方向性と整合しつつ審議結果を先取りしない立場を明示し、アワリーマッチングの追加的インパクトを探るためのエビデンス募集を行うとしている*8)。
今後の改定プロセス
ISBは2026年4月、まずパブコメを自ら検討して方向性を定め、その後TWGに詳細設計を委ねると決定した。同7月、ISBはその方向性として、マーケット基準に関し複数の報告アプローチの検討をTWGに指示した*2)。パブコメが浮き彫りにしたのは、「契約属性を物理的な時間・場所にどこまで結びつけるか」という設計上の問いと、その背後にある二つのセオリー・オブ・チェンジ(変化の理論)である。片や自主調達への参加による再エネ取引を最大化する経路、もう片方はマッチング条件を厳格化して系統上の実効性を高める経路である。ISBが複数手法の検討を持ちだしたのは、この対立を一つの案に収束させきれなかったためだと考えられる。
Scope 2 TWGは2026年9月に対面会合を開き、パブコメ内容を踏まえて、複数アプローチの議論を進める見通しである*9)。並行して、ISO14064-1との統合を踏まえ、コーポレート基準、Scope 2、Scope 3、行動と市場手段(AMI)の協議草案は一本化して2027年第2四半期に公表され、パブコメに掛けられることとなった。その間、Scope 2固有のコンサルテーションが再び必要になるかはISBの判断となる。最終基準は一つの文書『コーポレート基準第3版』として、2028年末に完成する見通しとなった*10)。
パブコメの票数では反対優勢でも、改定内容の決定は証拠と「科学的完全性」「インパクト」「実施可能性」三つの判断基準で行われる。今後は、複数報告手法や段階的導入などによる中間解が議論の中心になるだろう。その間日本企業としては、①自社再エネ調達の時間・場所・FIT依存度の現状把握、②SBTi第2版要件への早期対応、③政府・業界団体などを通じた市場境界・SSS・レガシー設計への継続的インプット、④蓄電池、地熱、デマンドレスポンス(DR)等の時間価値が高い電源手段への投資検討——などが、改定確定前の実務的な備えとなる。
*1) Greenhouse Gas Protocol, Scope 2 Public Consultation Summary, 29 July 2026. https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-07/S2-PublicConsultationSummaryofFeedback-2026.07.29.pdf
*2) Greenhouse Gas Protocol, Scope 2 Public Consultation Summary of Feedback: Executive Summary, 29 July 2026. https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-07/S2-ExecutiveSummary-PublicConsultation%20ummaryofFeedback-2026.07.29.pdf
*3) 待場智雄「GHGプロトコルScope2改定案、 パブコメ参加ガイド」、ゼロボード・インサイト、2026年1月9日 https://www.zeroboard.jp/column/5764
*4) Greenhouse Gas Protocol, “Upcoming Scope 2 Public Consultation: Overview of Revisions”, blog post, 29 September 2025. https://ghgprotocol.org/blog/upcoming-scope-2-public-consultation-overview-revisions
*5) Argus Media, “GHG Protocol faces pushback on scope 2 reforms,” 29 July 2026. https://www.argusmedia.com/en/news-and-insights/latest-market-news/2858486-ghg-protocol-faces-pushback-on-scope-2-reforms
*6) EnergyTag, “Leading corporates, investors and researchers back higher-integrity clean energy accounting — While many anonymous companies endorse a flawed status quo,” press release, 31 July 2026. https://energytag.org/wp-content/uploads/2026/07/GHGP-Consultation-Press-Release-1.pdf
*7) Japanese Bankers Association, JBA Comments on Greenhouse Gas Protocol Scope 2 Public Consultation, 26 December 2025. https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/en/news/news251226.pdf
*8) Science Based Targets Initiative (SBTi), Corporate Net-Zero Standard Version 2.0, June 2026. https://sciencebasedtargets.org/corporate-net-zero-standard-v2
*9) Heather Clancy, “GHG Protocol adjusts standards update timelines”, Trellis, 29 July 2026. https://trellis.net/article/ghg-protocol-adjusts-standards-update-timelines
*10) Greenhouse Gas Protocol, Corporate Accounting and Reporting Standard (Corporate Standard), Version 3.0 Standard Development Plan, 29 July 2026. https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2026-07/Consolidated-StandardDevelopmentPlan%28SDP%29-2026.07.29.pdf