TCFDとTNFDの違いとは?自然資本開示の視点から読み解く、企業が今TNFDを採用する意義
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とは?
TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関が自然資本や生物多様性に関するリスクと機会を適切に開示し、投資判断や事業戦略に組み込むための枠組みです。これは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と同様に、環境要因が企業経営に与える影響を明確にし、長期的な持続可能性を確保するための取り組みです。
企業は事業活動を通じて自然の恩恵を受ける一方で、その影響が生物多様性の損失を引き起こす場合もあります。この課題が世界的に顕在化する中、TNFDは企業に対して自然資本の評価とリスク管理の枠組みを提供し、より持続可能な経営を促します。
TNFD設立の背景と目的(なぜ今、世界で注目されているのか)
現在、地球上の生物多様性は人類史上かつてない速さで減少しており、1970年から2016年の間に野生動物の個体群が平均で68%も減少したと指摘されています。私たちの社会や経済活動は、自然がもたらす「生態系サービス」の恩恵によって成り立っており、世界全体の総GDPの半分以上に相当する経済価値が自然資本に依存しているという試算もあります。自然の劣化は原材料の供給不足やコスト増を招き、ビジネスの持続可能性を直接的に脅かす重大な財務リスクとなります。このような危機感を背景に、2021年6月、企業の自然関連リスクを可視化し、資金の流れを自然に負の影響を与えるものから、自然を回復させる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」へと転換させることを目的としてTNFDが設立されました。
企業にとってTNFDが重要な理由
(1) リスク管理とレピュテーション向上
企業活動が自然環境に及ぼす影響は、規制リスク、物理的リスク、評判リスクとして現れます。たとえば、森林伐採や水資源の過剰使用が環境団体からの批判を受け、ブランド価値の毀損につながることがあります。TNFDの枠組みを活用して、環境リスクを適切に開示することで、投資家や消費者からの信頼を維持・向上させることができます。
(2) 規制対応と投資家の要求
EUや各国の政府が生物多様性保全を重視する規制を強化する中、TNFDに沿った情報開示は企業のコンプライアンス対応において重要となります。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大に伴い、投資家は企業の環境リスクをより厳格に評価するようになっています。TNFDに準拠することで、資本市場における競争力を高めることができます。
(3) サプライチェーンの透明性向上
多くの企業が自社の直接的な環境影響だけでなく、サプライチェーン全体での影響を考慮する必要に迫られています。特に農業、製造業、エネルギー業界では、原材料の調達プロセスが生物多様性や自然資本に大きな影響を与えるため、プライヤーとの協力を強化し、持続可能な調達を実現することが求められます。
ネイチャーポジティブとは?
TNFDと並ぶ重要な概念として、世界的に「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」が注目されています。これは、生物多様性の損失を防ぎ、自然環境を回復・強化することを目指す概念です。2022年の生物多様性COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(GBF)」では、2030年までにネイチャーポジティブを実現することが掲げられています。
企業にとって、ネイチャーポジティブへの取り組みは単なる社会的責任ではなく、長期的な競争力向上にも寄与します。具体的な施策として、以下のような取り組みが考えられます。
リジェネラティブ農業:土壌の健康を改善し、炭素隔離と生物多様性の回復を両立する。
生物多様性クレジットの活用:森林保全活動に投資し、環境負荷のオフセットを図る。
TNFD対応の企業戦略:財務情報と自然資本データを統合し、持続可能な成長戦略を策定する。
TNFDとTCFDの共通点と相違点(気候変動から自然資本へ)
TNFDは先行するTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みをベースにしており、両者は「兄弟のような関係」と言われます。
• 共通点: どちらも「ガバナンス」「戦略」「リスク(と影響)の管理」「指標と目標」の4つの柱で構成されており、TCFDで培った体制をそのまま活用できるよう設計されています。
• 相違点: 最大の相違点は「場所の固有性(Location)」です。気候変動(CO2)は世界共通の指標で評価可能ですが、自然資本は事業を行う地域によって生態系の価値やリスクが大きく異なるため、より多面的で複雑な分析が求められます。
TNFDの開示フレームワーク
(1) 4つの柱と14の推奨項目
TNFDの最終提言(v1.0)では、4つの柱に紐づく14の開示推奨項目が定められました。これはTCFDの11項目をすべて含み、さらに自然特有の視点として**「先住民族・地域社会とのエンゲージメント」「優先地域の特定」「バリューチェーン全体の影響把握」の3項目が追加されています。
(2) 自然関連の「依存・インパクト・リスク・機会」の定義
TNFDは、以下の4つの要素を特定し、財務報告に統合することを求めています。
• 依存: 水資源や土壌、防災機能など、事業が自然から受けている恩恵。
• インパクト: 事業活動が直接的・間接的に自然に与える影響(プラス・マイナスの両面)。
• リスク: 自然への依存や影響から生じる、物理的リスクや規制・評判などの移行リスク。
• 機会: 自然の回復や保全に貢献することで生まれる新たなビジネスチャンスや価値向上。
実践のための「LEAPアプローチ」(特定・評価・分析・準備のステップ)
企業が自然関連の課題を評価・管理するためのガイドラインとして推奨されているのが「LEAPアプローチ」です。
1. Locate(発見): 事業やサプライチェーンが、どの地域で自然と接点を持っているかを特定する。
2. Evaluate(診断): 特定された場所において、自然への「依存」と「影響」を科学的に診断する。
3. Assess(評価): 依存・影響が自社にとってどのような「リスク」と「機会」になるかを査定する。
4. Prepare(準備): 評価結果への対応策を策定し、指標を設定して開示の準備を整える。
企業は自然資本をどのように活用・保全すべきか?
(1) 自然資本会計を導入する
企業が森林、水資源、生態系サービスの価値を財務指標に組み込むことで、環境負荷を定量的に把握しやすくなります。TNFDのフレームワークを活用することで、企業の経営判断に自然資本の要素を組み込むことができます。
(2) GHG排出量算定と組み合わせる
企業がGHG排出量を正確に把握し、削減目標を設定するためには、GHG排出量の算定が重要です。TNFDに対応した指標を活用することで、企業は自然資本と気候変動対策の両方を考慮したサステナビリティ戦略を策定できます。
(3) サプライチェーン全体の環境影響を可視化する
調達先の環境負荷を評価し、持続可能なサプライチェーンを構築することは、企業の長期的な価値向上につながります。例えば、持続可能な木材や再生可能資源の活用を促進することで、環境リスクを低減できます。
国内外の最新動向と今後のスケジュール
2023年9月の最終提言公表後、開示の主流化が急速に進んでいます。
- 世界の動向: 国際基準策定機関(ISSB)が自然関連の基準検討を開始したほか、CDPの質問書も2024年からTNFDと整合されるなど、他フレームワークとの連携が強化されています。
- 日本の動向: 日本企業の対応は世界的に突出しており、早期開示を宣言した「TNFD Adopter」は日本が国別で世界最多となっています。
- 今後の予定: 今後はCOP16などの国際会議を節目に、将来的な情報開示の義務化に向けた議論や政策整備がさらに加速すると予測されています。
TNFDへの対応は、「これまで「無償」だと思い込んできた自然資本を、経営のバランスシート(貸借対照表)に正しく書き加え、持続可能な未来への「投資」へと変えていくプロセス」と言えます。この変化にいち早く対応することは、リスクの回避だけでなく、資本市場での確固たる競争優位を築く鍵となります。
まとめ
TNFDは、企業が自然資本のリスクと機会を管理し、持続可能な経営を実現するための重要な枠組みです。生物多様性の損失が深刻化する中、ネイチャーポジティブの考え方を取り入れることは、企業の競争力を強化し、規制対応をスムーズにする鍵となります。
ゼロボードは、GHG排出量算定の専門性を生かし、企業の環境経営を支援するソリューションを提供しています。持続可能な未来に向けて、企業の取り組みを加速させるパートナーとして、引き続き貢献していきます。ゼロボードのシンクタンクであるゼロボード総研は、自然資本の保全と持続可能な利用を目指して、共に学び、研究し、行動するためのプラットフォームとして自然資本研究会を設立しました。参加企業とともに自社に適したTNFD開示を考えるなど、継続した活動に取り組んでいます。
自然資本研究会の概要や提言書はこちらからご覧いただけます。
https://www.zeroboard.jp/service/zri
ゼロボードは、GHG排出量算定の専門性を生かし、TNFDに対応した企業の環境経営を支援するソリューションを提供しています。持続可能な未来に向けて、企業の取り組みを加速させるパートナーとして、引き続き貢献していきます。
ゼロボードのシンクタンクであるゼロボード総研は、自然資本の保全と持続可能な利用を目指して、共に学び、研究し、行動するためのプラットフォームとして自然資本研究会を設立しました。
参加企業とともに自社に適したTNFD開示を考えるなど、継続した活動に取り組んでいます。
ゼロボード総研について


<出典元>
WWFジャパンー過去50年で生物多様性は68%減少 地球の生命の未来を決める2020年からの行動変革
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4402.html
外務省ー生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page22_003988.html
