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サステナビリティの「黄金時代」はまだこれから―ジョン・エルキントン氏に聞く

目次

グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事
GHGプロトコル専門作業部会(TWG)メンバー

ゼロボード総研所長 待場 智雄

私が理事を務めるGRIスタンダードの審議機関グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)の会合出席のため、2025年11月にオランダ・アムステルダムを訪れた際に、私が企業のESG・脱炭素経営支援に携わるきっかけとなったジョン・エルキントン氏に約10年ぶりにお会いした。

エルキントン氏は「グリーンコンシューマー」「トリプルボトムライン」「3Ps (People, Planet, Profit)」といった概念を提唱、1994年にロンドンでSustainAbility社を立ち上げ、当時NGOや消費者の批判にさらされていた大手企業のサステナビリティ経営への転換を支援。私も同社でアソシエートとして関わる機会を得たことで、企業側から世界を変えていく動きの誕生を目撃し、この分野に長年携わるきっかけとなった。

それから30年、緩やかな歩みながら、脱炭素・サステナビリティは企業経営の重要課題として浸透し、情報開示も各国で法制化が進みつつあるが、2025年は米トランプ政権誕生前後からの反ESGの動き、欧州での右派台頭によるグリーンディール政策の後退と、大きな逆風にさらされた。サステナビリティという「錦の旗」を背負ってきたエルキントン氏はこれをどう見ているのだろうか? 意外にも彼は、トランプ大統領の再登場はサステナビリティ業界にとって「贈り物」(gift)だと考えているという。「私たちは、社会システムレベルの変革へ向けた進化の泥沼の中にいる。チョウに変態する過程でイモムシの体組織がドロドロに溶けるように、古いシステムが崩壊し新たな形が模索されている混沌が今なのだ」と。

ジョン・エルキントン氏と筆者

以下、エルキントン氏がベネルックス3国のBコープ(社会・環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証)企業の年次集会で講演した内容を基に、「泥沼を抜け出し次のインパクトの時代を切り拓くために乗り越えるべき5つの課題」(5 Beyonds)について、本人の許可を得てまとめた*1)。世界の動きに惑わされながらも日々脱炭素・サステナビリティに取り組んでいる皆さんの2026年の道しるべとなれば幸いである。

1. Beyond Trump(トランプ氏を超えて)

私たちは政治的分断や、特定の人物による劇場型の政治サイクルに振り回されてはならない。逆説的だが、ドナルド・トランプ氏はサステナビリティ業界にとって「贈り物」であると私は考えている。なぜなら、彼の存在は私たちに基本的な前提を見直させ、かつては想定もしなかった多国籍企業やプライベート・エクイティ・ファンドあるいは安全保障機関といった多様な組織と「有志連合」を組むことを強いるからだ。

米国が気候変動対策を担う政府機関を閉鎖し、自らの足を撃っている間に、中国は電気自動車(EV)やレアアース、その他重要な技術で支配を強めている。だからこそ、私たちは保守・リベラルを問わない超党派の連合を築き、選挙やイデオロギーに左右されない「政策レジリエンス」を確立する必要がある。

2. Beyond Compliance(コンプライアンスを超えて)

法令順守は重要だが、規制だけでは市場を再起動できない。過度な規制は官僚的な形式主義を生むだけである。私たちに必要なのは、あらゆるレベルでのイノベーションである

AIが良い例だ。あるドイツ企業はAIを活用し、1億以上の素材をスキャンすることで、中国が支配するレアアースを使わない強力な磁石を発見した。加えて、これは従来の磁石よりCO2排出量が70%も少ないという。Bコープが使命感から自然に行っていることが、市場全体のデフォルトになるよう、絶え間ないイノベーションを通じて市場を作り変えねばならない。

3. Beyond Shareholders(株主を超えて)

株主利益第一主義から、ステークホルダー主体のガバナンスへとマインドセットを変える時だ。「希望」はソファーに座って何とかなるだろうと楽観的に考えるものではない。保険業界はすでに世界の平均気温が産業革命以前より3℃上昇する世界を想定しており、保険が効かない世界が近づいている。現在の危機的状況に立ち向かうには、「鋭さを持った希望」(Hope with an edge)が必要で、それは停滞した現状から未来に自分を向かわせる力となるものだろう。

そのためには、ビジネス、経済、社会のあらゆるレベルで変革を生み出している女性たちの勇気に注目したい。多様性を組み込んだ取締役会への抜本的なシフトなくして、サステナビリティの実現は不可能であると私は確信している。

ベネルックスBコープ年次集会(Beyond Summit 2025)の様子

4. Beyond Certification(認証を超えて)

次のインパクトの時代に向かうために、認証は変革のための必要条件ではあるが十分条件ではない。一度取得して終わりの静的なバッジや記述ベースの情報開示から、継続的で透明性の高いデータドリブンな説明責任へと移行していくだろう。今後数年で計測方法が確立し、リアルタイムで企業のインパクトを表示できるダッシュボードが登場するだろう。

ESGパフォーマンス評価は、個々のより良い企業を奨励する段階から、より良い市場経済の形成にどれほど貢献しているかを見る段階へと進化しなければならない。

5. Beyond Our Businesses(自社ビジネスを超えて)

革新的な起業家は素晴らしいが、インパクトは一社単位を超えてシステムレベルで生み出す必要がある。これには、セクターごとの連合形成や、サステナビリティ技術に関する競争前の協力が含まれる。私たちは、自社のビジネスの枠を超え、資本主義のあり方そのものを再構築し、市場を生態系本来の回復力の範囲内に戻していく(再野生化: Rewilding)段階に来ている。

人類が地球に地質学的な影響を与えている現代を「人新世」と呼ぶ考え方があるが、私はその先を見ている。プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を突破したその向こう側で、自然と建設的に共生できる技術、ビジネスモデル、都市、経済を築くこと。これこそが、私が考える究極のBeyondであり、希望の源である。

私はこの分野に50年以上身を置いているが、若い世代から「サステナビリティの黄金時代に生まれたかった」と言われることがある。それに対する私の答えは、「黄金時代はまだ来ていない、これから来るのだ」。

あとがき-サーキュラーなイベント会場

このBコープ年次集会が開かれたのは、アムステルダム市北西部に2023年にオープンしたCirca Amsterdamという名のドーム型イベント施設。元は、1967年のモントリオール万博アメリカ館で米建築家リチャード・バックミンスター・フラーが紹介したジオデシック(測地線)ドームを、欧州初で1971年に建てた歴史的建築。航空博物館として2003年までスキポール空港にあったが、解体され長らく倉庫に眠っていた。その部材に加え、保管に使われたコンテナ、他施設の装飾や廃材も利用して再構築したという、その名の通りサーキュラーエコノミーを体現した会場だった*2)

Circa Amsterdamの外観と内部の様子

1)John Elkington, Five “Beyonds” For Tomorrow’s “B Economy”, 24 November 2025.   https://johnelkington.substack.com/p/five-beyonds-for-tomorrows-b-economy 

2)Circa Amsterdam, About Circa Amsterdam. https://circa.nl/en/about-circa-amsterdam 

 

  • 記事を書いた人
    待場 智雄(ゼロボード総研 所長)

    朝日新聞記者を経て、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略対応支援に携わる。GRI国際事務局でガイドライン改訂等に携わり、OECD科学技術産業局でエコイノベーション政策研究をリード。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で世界各地の再エネ技術データのナリッジマネジメント担当、UAE連邦政府でグリーン経済、気候変動対応の戦略・政策づくりを行う。国連気候技術センター・ネットワーク(CTCN)副所長として途上国への技術移転支援を担い、2021年に帰国。外資系コンサルのERMにて脱炭素・ESG担当パートナーを務め、2023年8月よりゼロボード総研所長に就任。2024年1月よりGRIの審議機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事、2025年3月よりGHGプロトコルTWGメンバーを務める。上智大学文学部新聞学科卒、英サセックス大学国際開発学研究所修士取得。