欧州議会、第1次オムニバスを採択―CSRD、CSDDD適用範囲が大幅縮小、ESRSの開示項目は61％減
グローバル・サステナビリティ基準審議会（GSSB）理事
GHGプロトコル専門作業部会（TWG）メンバー
ゼロボード総研所長 待場 智雄
欧州議会は12月16日、欧州の競争力強化を目的にグリーンディール関連法の簡素化を目指す「第1次オムニバスパッケージ」に関し、EU加盟各国政府との仮合意を賛成多数で採択した。これで、企業サステナビリティ報告指令（CSRD）と企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令（CSDDD）の適用範囲や規定の大幅に削減・縮小が本決まりとなった。
またこれに先立ち、欧州財務報告諮問グループ (EFRAG)が12月3日、CSRDの実施要項となる欧州サステナビリティ報告基準 (ESRS) を簡素化する専門的助言を欧州委員会に提出した。以下に概要を記す。
CSRD
- 従業員1,000人超かつ純売上高4億5,000万ユーロ超の欧州企業に適用（対象は現行より約90％減で、以前の開示指令NFRDと比べても半減）。
- 総売上高4億5000万ユーロ超の域外企業および域内売上高2億ユーロ超の子会社・支店にも適用。
- 従業員1,000人未満の企業は上記の適用対象企業に対し、非上場中小企業向けの自主的開示基準*2) 以上の情報提供を行う必要なし。
- 簡素化されるESRSは域外企業を含め、2027年度の報告（2028年発行）から適用。
- すでにCSRD適用が始まっている「第1波」企業は2025年度、26年度の報告については現行ESRSに従う。ただし、新しい適用範囲から漏れる企業に対しては、加盟各国が免除できる。
- 開示内容については、第三者機関による限定的保証を求める。2026年10月1日までに保証基準を採択。 * 1)
ESRS
- 有用な情報への焦点: 関連性と公正な提示に関するフィルターを強化し、より明確で順守負担を軽減した報告を実現。
- マテリアリティ評価の簡素化: ダブルマテリアリティ評価（DMA）に関するガイダンスの明確化、文書化の必要削減、監査の期待との整合性向上。
- バリューチェーンデータ収集圧力の軽減: 直接データ取得の優先性が削除され、データ収集の負担を軽減。
- 大幅な緩和策と段階的導入: 困難な開示事項に対し、組織の能力に応じた比例性メカニズムと移行期間の導入。
- 原則に基づく叙述的報告の強化: 方針、行動、目標の報告に柔軟性。サステナビリティ課題をどう管理しているかに重点を置いた説明を求める。
- より簡潔で明確な基準: ESRSを合理化し、理解と導入を容易に。
- データポイントの削減: マテリアルな場合に必須の開示項目を61%削減、自主開示項目はすべて削除。
- IFRS S基準との相互運用性の向上: 共通開示項目、GHG排出量算定バウンダリーの改善、予測される財務影響に関する規定の整合性を向上。ESRS簡素化でIFRS S基準の方が上回る項目も出ており、双方を順守する場合は注意が必要。 *3)
CSDDD
- 従業員5,000人超かつ純売上高15億ユーロ超の欧州企業、および純売上高15億ユーロ超の域外企業に適用。
- 自社に関わる活動の上下流への連鎖（Chain of Activities）の実際および潜在的な負のリスクに関して絞り込み評価（scoping exercise）を行うこと。詳細なマッピングは不要。
- 気候変動緩和に関する移行計画を削除（CSRDにおいては依然ESRS E1にて求められる）。
- 従業員5,000人未満の企業からの情報提供は、他に入手する方法がない詳細情報が必要な場合に限る。
- 上下流のパートナー企業に深刻なリスクが特定された場合でも、契約解除までは求めない。
- デューデリジェンス評価は最低5年ごと、もしくは負の影響が確認された場合、新市場への算入、M&Aなど必要に応じて実施。
- 違反に対してEUレベルでの民事責任を求めず、加盟各国の定義にゆだねる。罰金は全世界純売上高の3％を上限に。 *1)
なお、CSRD、CSDDDともに適用範囲の見直しができる「レビュー条項」を挿入しており、将来的には対象企業が増える可能性を残した。
ESRSは簡素化案に基づき、欧州委が委任法案を作成、欧州議会と欧州理事会の審議にかけられる。改定ESRS基準の完成は2026年半ば～後半となる模様。
CSRDの適用対象が前規制よりも減るなど、今回の大幅な縮小でEU規制が世界のサステナビリティ施策をけん引する力は大きく失われた。一方で、ダブルマテリアリティに基づく開示、バリューチェーンの人権・環境リスクの考慮の重要性は十分に認識され、規制の対象とならずとも大手の欧州企業のプラクティスやステークホルダーからの要求に大きな変化はないと思われる。日本企業は開示規制の動きにとらわれ過ぎず、IFRS SもしくはSSBJ基準に加え、自主的な国際的枠組み（TCFD, TNFD, GRI, SBTi, RE100, CDPなど）をうまく活用しながら、自社にとって重要な課題にフォーカスして取り組みを前進させる必要があるだろう。
*1）European Parliament, Simplified sustainability reporting and due diligence rules for businesses, press release, 16 December 2025. www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20251211IPR32164/simplified-sustainability-reporting-and-due-diligence-rules-for-businesses; LRQA, The EU Omnibus final outcome: Key changes to CSRD and CSDDD and what to do next, December 2025. www.lrqa.com/en/insights/articles/omnibus-update-december-2025
*2）European Financial Reporting Advisory Group (EFRAG), EFRAG Voluntary Sustainability Reporting Standard for non-listed SMEs (VSME), December 2024. www.efrag.org/sites/default/files/sites/webpublishing/SiteAssets/VSME%20Standard.pdf
*3）European Financial Reporting Advisory Group (EFRAG), Draft Simplified ESRS: At a glimpse. November 2025. www.efrag.org/sites/default/files/media/document/2025-12/Simplified%20ESRS%20Factsheets%20%284%29.pdf
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